第6話

 朝目覚めたとき、どこにいるのかわからなかった。

 見たことのない天井だった。しばらく目を開けたり閉じたりしたが、景色は変わらない。そのうち記憶が戻ってくる。チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてくる。


「そっかぁ、俺、死んだんだっけ」


 理玖は起きた時から自分の身体の違和感に気づいていた。明らかに女の身体で、自分の身体ではなかった。

 せめてこっちだけでも夢であって欲しかった。


「どうするかなぁ、神様に会いに行ってみるしかないだろうな。手違いだろうからすぐにもとの身体に戻してくれるだろう」


 昼からは冒険者ギルドに行く事なっているから、朝のうちに行っておくか。理玖は朝やらなければならないことが沢山あることに気づいてため息をついた。

 早く稼がないといけないのにやることが多すぎる。

 一応冒険者らしい恰好はしているから、防具とか買わなくてもよさそうだけど、魔法がどれだけ使えるのかは気になるところだ。どこか人気のないところを探して魔法を試さないと安心して依頼も受けられない。


「まあ、どっちにしても神殿で身体を変えてもらわないと何もできないな。あっ、しまった。宿賃五日分払ったけど理玖の姿になったらまた払わないといけなくなるな。神様になんとかならないか聞いてみるか」


 冒険者として働くにしてもどのくらい稼げるかは未知の世界だ。今は少しでも節約したいところだ。

神様のミスだから何とかしてもらえるよな。


「そう言えばステータスがどうのって言ってたよな。ステータス!」


 ステータスと唱えると、タブレットのような画面が目の前に現れた。



名前 :井端理玖(男?)

種族 :人間

年齢 :18

職業 :学生

状態 :健康

運  :A

スキル:治癒魔法A、回復魔法A、鑑定A、火魔法A、水魔法A、氷魔法A、風魔法A、地魔法A、雷魔法A、光魔法A、闇魔法A、無魔法A、補助魔法A、生活魔法A、剣術S、格闘:A、毒耐性、探査能力……、

ギフト:異世界言語、食パン(異世界の食べ物)



 いろいろとおかしい。理玖は自分のステータスを何度も見返した。魔法が多すぎる。Aとは何だろう。まさかAの次がSってことはないよな。神様から貰ったとはいえ、良すぎないだろうか。これではかえって悪目立ちしそうだ。


「それに食パンってなんだ? 異世界の食べ物なら普通は米だろう。なんで食パンなんだ?」


 突っ込みどころ満載な気がして理玖は頭を抱えたくなる。やっぱりあの神様ははずれだったみたいだ。

これはもう神殿で神様に会ってから文句を言わせてもらおう。



「リューリ、おはよう」


 シャワーを浴びてから、昨夜食べた食事処に行くとリューリがちょこまかと働いていた。


「おはようございます。朝ご飯は皆さん同じものなので座って、お待ちください」


 理玖は適当な場所に座る。少し遅かったのか、結構席が空いている。


「お待たせしました」


 リューリが運んできたのは、丸い形のパンが二つと野菜がたくさん入ったスープだった。

 パンは少し硬かったが、スープと食べると丁度良かった。


「人が少ないようだが、もしかしてこの時間だと遅いのか?」

「冒険者の人は朝が早いから、この時間だといつもこんな感じだよ」

「そうか。明日からはもう少し早く起きるか」


 ササッと食べ終えると神殿までの道をリューリに教えてもらう。歩いて三十分はかかるらしい。


「そんなにかかるのか」

「商業ギルドの前から馬車が出てるよ」

「いくらだ?」

「確か三銅貨だったと思うよ」


 リューリはほとんどの距離を歩いて馬車には乗らないので、あいまいな返事だった。

 三十分も歩きたくなかったので、商業ギルドまでの道を尋ねてから、宿を後にした。



 昨日は動揺していてよく見えていなかった街並みを眺めながら歩く。

 日本とは全く違う雰囲気。歩く人たちの顔つきが違う。


(世界が違うか…、本当にこの世界でやっていけるのだろうか…)


 日本とちがって頼れるもののいない世界。

 過酷なこの世界で生きていけるのだろうか。確かに十分すぎるほどのスキルはもらったが、自分にそれが使いこなせなければ死が待っている。死と隣り合わせの世界は、日本とはあまりにも違いすぎる。

とにかく俺の身体を取り戻さないと。この女の姿はやばい。今だってあちこちから見られている。事件に巻き込まれる前に男にもどしてもらわなければ。理玖は焦る気もちを抑えながら、馬車に乗り込んだ。

 馬車の乗り心地は最悪だった。おそらく馬車の性能というより、道が悪いのだろう。

 揺れる方向に身体が傾くので、力を入れすぎて神殿に到着したときには疲れていた。

 馬車に乗るお金は載る時に払っているので、飛び降りる。

 神殿にはあまり人気がなかった。入っていいものか悩んでいたが、声をかけようにも人と出会わないので、覚悟を決めて中へと進んだ。


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