第3話
中世ヨーロッパを思わせる建物。理玖はキョロキョロと見上げながら歩く。石畳の道は歩きにくく、こちらの靴と思われる皮のブーツは履き心地は良いが慣れてないので歩き辛い。
それほど歩かない場所に『いつもの宿』があったので理玖はホッとした。とにかく早く自分の姿を確認したい。
「お母さん、お客さん連れてきたよ~」
リューリの母親の耳は白くフサフサしている。まだ若く二十代と思われた。
「いらっしゃいませ。あたしはサラだ。用がある時はだいたいここにいるからなんでも言っとくれ。お風呂とトイレ付きで一泊銀貨4枚だ。夕食と朝食付きだと銀貨五枚になるよ」
「ちなみにお風呂とトイレ付いてないのはいくらですか?」
「あら、高そうな服着てるから風呂付きが良いのかと思ってたよ。付いてないのは三銀貨だよ。冒険者はたいていこっちだがね」
理玖としても風呂付きの方が良いので初めから風呂があるのなら風呂付きを考えていたが、稼ぐことが出来なくなった時の為に相場が知りたかったのだ。この世界に風呂が存在していた事に感謝したい。きっとあの少女もホッとしているだろう。
「風呂トイレ付きの食事付きで五泊だ」
理玖は鞄に財布があるのはなんとなく感じていたので財布を出す。財布は理玖が今まで使っといたのとは全く違うただの袋で紐で結ぶ簡単な造りだった。
「なんだい、やっぱり風呂付きかい。銀貨二十五枚だね。白銀貨二枚と銀貨五枚でもいいよ」
どうやら白銀貨一枚が銀貨10枚になるようだ。こういう基礎的な事も調べておかないと騙されるなと理玖は思った。財布から金貨一枚を出して渡した。白銀貨より金貨の方が高そうだからお釣りがいくら貰えるか確かめるためだ。お釣りは白銀貨七枚と銀貨五枚だから、金貨は白銀貨十枚になる。理玖は財布にお釣りを入れながら当分は頭で考えながらお金を使わないといけない事に顔を顰めた。
「二階の角の『すみれ』だよ。部屋の掃除とシーツ替えは昼間にやるからね。貴重品は自分で管理しとくれよ。部屋の掃除がいらない時も朝のうちに言っとくれ」
持ち物は基本的に部屋に置いとかない方が良いという事だろう。部屋の掃除は有難いが宿屋はどうしても自分の居場所って感じがしない。早めにお金を貯めて部屋を借りないと息が詰まりそうだ。
理玖が宿帳にイバタリクと書くと
「イバタリク様ですね」
と言われた。理玖はずっとフルネームで呼ばれるのは嫌なので
「リクと読んでください」
と言った。
「リク様、これが鍵になる。無くすと白銀貨二枚かかるから外出する時はここに預けることだね」
「はい、気をつけます」
ベッドとタンスがあるだけで実に殺風景な部屋だった。鏡も三十センチくらいで全身像は見れそうもない。それでも理玖は真っ先に鏡へと向かう。
「あ~」
ピンクの髪に赤い瞳。彫りの深い顔。だがかすかに花奈の面影がある事に理玖は気付いた。
(神様が間違えたのか? それともこれは俺への罰なのか? 花奈さんを死なせたことへの罰。その事をいつでも思い出せるように花奈さんとよく似た顔にしたのか? でも女の姿にする必要があるのだろうか?)
リューリが夕飯だと呼びに来てくれるまで理玖は頭を抱えて考え続けていた。
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