ファンタジック・アイロニー シオンside
なぎコミュ!
第1話 ハジマリノ語リ・上(執筆者:あかつきいろ)
とある1日。その日は何も変わらない日の筈だった。少なくとも大勢の人々にとって、何の変哲もなしただの1日として過ぎる筈だったその日
_______世界は激変した。
突如として発生した巨大地震。
それだけであったのなら、きっと誰も何も言わなかっただろう。日本にすれば耳にしない訳ではないし、海外の国々からすれば未曾有の大災害だがそれでもあり得ない訳ではない。
だが、もしも________それが同時多発的に起こったなら?
アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランス、イツ、日本を始めとした先進国の国々。そして発展途上の国々すら襲った、まるで狙いすましたかのように起こった大厄災、後に『崩落の日』と呼ばれたその日。
________彼らもまた人々と同じようになす術もなく、ただ逃げ回っていた。
「ヒマリ、こっちだ!」
「シオン、もう無理だよ!」
何の力も持たない双子とおぼしき少年少女、そしてその少年におんぶされた少女は壊れ果てた街並みを走っていた。ちょうど先日、避難訓練を受けたばかりの2人は高台へ避難しようとしていたのだ。
しかし、走っている途中で足をくじいてしまった少女は少年に自分をおいて逃げるように言った。
このままでは共倒れだと、あんただけでも生き残ってくれと、そう、少女は言ったのだ。
それがどういう意味なのか、理解していても尚、少女はそう少年に伝えるのだ。
けれど、少年はその言葉を振り払った。
未曾有の大災害、少女を捨てでも生き残るのが正しい道なのかもしれない。けれど、そんな道はくそ食らえだ。そんな道を少年は肯定することはできなかった。
たとえ、ここで少女を見捨てたとしても生き残れるとは限らない。こんな大災害だ。両親も生き残っている可能性は限りなく低いと言わざるを得ない。だとするなら、少年にとって今生きている家族は目の前にいる少女だけなのだ。
しかし、それ以上に。
ここで少女を見捨てることなど少年にはできなかった。なぜなら、生まれてからずつと一緒に生きてきた妹なのだ。自分の命惜しさに妹を見捨てるなど、それこそくそ食らえというものだ。
自分はバイクに乗って颯爽と困った人々を助けるヒーローではない。
この惨状で人に手をさしのべる事のできる余裕のある者ではない。
だからこそ、せめて自分の目の前にいる家族だけは助けたいと、そう願ったのだ。
「もう止めてよ……このままじゃ、あたしもあんたも死んじゃうんだ。あたしを見捨てて、あんただけでも生き残ってよ」
「うるせぇ!お前が何と言おうと、俺は絶対にお前を助けることを諦めない! いいか、絶対に、だ!だから、黙って助けられてろ!」
少年は諦めない。
誰が何と言おうとも、助けることを諦めない。絶対にその心が折れることは決してあり得ない。
たとえ、視界の端に潰れている人の死骸を見たとしても。助けを求める声を聞いたとしても。
少年は振り返らずに走り続ける。
しばらくそのまま走っていると、ようやく避難しようとしていた高台が見えてきた。これで助かる そう思ったその瞬間、再び巨大な地震が起きた。行かせはしないと言っているかのように、その地震はピンポイントで少年たちの地面を揺らした。
あまりにも巨大なエネルギーに少年は立っていることが出来なかった。地面に亀裂が入り、少年と少女を呑み込もうとしている。
少年は何とか逃れようと自分にできる必死に走ろうとした。けれど、所詮はまだ成熟しきっていない子供の全力だ。
亀裂から逃れる事は叶わない。
亀裂に呑まれた少年は見てしまった。底すら視界に入れることができないほどの広大な暗闇が、そこには広がっていた。
岩肌に捕まることすらできず、少年と少女は墜落していく。
何とか少女を離すまいと奮闘していたが、遂には少女から離れてしまう。
何とか手を伸ばし、もう一度掴もうとする少年と少女。必死に手を伸ばし、少年と少女の指が触れ合い――――――――けれど、その手が結ばれることはなく、ゆらりとその手は離れていった……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして2人は墜ちていく。
果ての見えない奈落へと墜落し始めたのだ。
光源は遥か遠く、最早彼らの周りに光は一切として存在しない。少年の中にはただ、絶望と虚無感、そして現実に対する無力さだけが存在していたのだ。
ただ墜ちていき、何も出来ない。
このまま地面に叩きつけられて死ぬぐらいしか道はないだろう。そう思った瞬間、突如として強烈な光源が生まれた。あまりにも強烈に過ぎたソレに、少年は視界を覆わざるを得なかった。
けれど、それでも、うっすらとだが見てしまったのだ。
――――光の先に呑まれていく妹の姿を。
その光が一体何であるのかなど、少年には分からなかった。それでも、何もすることの出来ない自分に対して絶望した。どうしてこんなにも力がないのかと、そう思ってしまうほどに。
少年の心の中に生まれていた絶望の感情がより強くなっていった。
どれだけの時間、墜ち続けているのか分からない。1分かもしれない、10分かもしれない。はたまた1時間かもしれない。どれかは分からないけれど、最早少年にとってはそんな事は些末事でしかなかった。そんな事よりも、自分の無力さが何よりも呪わしかったからだ。
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