第二巻 序章 深遠な夜への長い旅路

序章 深遠な夜への長い旅路①


(な、なんで……こんな事に……)


現在時刻は夜半過ぎ。

自室のかべぎわのうするホールデン。

目の前にはうるわしいれんな美少女が2人、ホールデンの前に立っている。


「ちょ、ちょっと待ってくれって……」


今すぐ払うか、臓器を取り出されるか選ばせてア・ゲ・ル……」


 身長が高く、スラッとした手足、出るところは出ており、非常にようえんな美女が言う。


「おねーちゃん、かわいそうデスよ。そんなにおどしたら」


 身長が低い方の少女は口ではわいそうと言うが、その手に持ったイカつい死神のかまを連想させる大鎌をホールデンの首元にかざしている。


「ヒィイ!」


 その切っ先に本気の殺意がめられている事に気がつくと、ホールデンは悲鳴をあげる。


(な、なんてこった……少しが差しただけなのに、どえらい事になっちまった……)


 話は10日前にもどる。


「腹減った……」


 ホールデンは昼時の第1区画を、腹を鳴らしながら歩いていた。昼飯時なので飲食店からはいいにおいがただよっており、それがホールデンの空腹を加速させていた。


「アンタ……お店の前で匂いをぐなんていやしいはしないでよね」


 となりを歩くメグがあきれた表情でホールデンを見る。


「ふふふ……」


 不敵なみをかべるホールデン。いつもならメグが言う通りかん口から匂いをたんのうするだけで終わらせるホールデンだったが、今日はちがう。


「ハハ! 今日はそんなみみっちい事はしない! なぜなら金があるからだ!」


 腹が減りすぎてついに頭が変になったのかと、メグは気の毒そうにホールデンを見る。


「なんだよ、その目は! これを見やがれ!」


 ホールデンはおのれさいの中身をメグに見せる。


「ア、 アンタ……いくらお金がないからって、ぬすみに走るなんて……」


「なんで、盗んだことが前提なのっ!? 違うから!この金は俺があせみず垂らしてかせいだ、清く美しい金だ!」


「……そういううそはいいから。さぁ、いつしよに治安部に行きましょう。自首すれば少しでも罪が軽くなるから」


 メグはホールデンの首根っこをつかむと引きずる。


「いやいやいや! どんだけ信用ないんだよ俺は!」


 ホールデンはメグのうでを解くとさけんだ。


「給料を全部わたしにしてもらったんだよ!そんで借金返済は自分でり込むようにした!だから今俺の手元には金があるのだ」


「……アンタ確か毎月どれだけ稼いでも手元に3万7830ルードしか残らないのよね? どうせ払うなら一度自分の手元に入れる意味あるの?」


ふりこみ額を少しだけちょろまかす作戦さ!」


「……それって結局自分の首をめるだけじゃない? 返済もおそくなるし。それに、そう簡単に返済額をごまかせないと思うけど」


 メグは呆れた顔でホールデンを見て言うが、その言葉はホールデンに届いていなかった。


「フハハ! 俺は天才だ! どれ、しよみんにこの俺がなんでも好きな飯をおごってやろう!」


「……はぁ。典型的な庶民はアンタでしょうが」


 メグのボヤキは、テンションが高いホールデンの耳には届かなかった。


 金がある生活を初めて送ったホールデンは気が大きくなり、せいだいに散財した。すると、手元の金が心もとなくなってしまい、1ルードも返済しなかった。

 そんなある意味シアワセな生活を送っていたある日の夜。自室でねむっていたホールデンはきみような音で目が覚める。


「る……」


 ベッドから身を起こすホールデン。


「ずーるっ♫ずーるっ♫ずーるっ♫」


「なんだ……どんどん音が近く……」


 ホールデンは扉の前まで移動する。そのしゆんかんすさまじい勢いで扉が開かれ、外からしんにゆうした何者かに地面に転がされてしまう。


「いててて……な、なんだ……何が起き……」


 ホールデンはだまる。目の先数ミリの所に殺意の切っ先が向けられていたからだ。


「ホールデン君、今月の返済がまだだけど焦らされるのは嫌いじゃないけどね?」


 いろふくんだあやしい声が聞こえる。


「おねーちゃん……そんな乱暴な言葉づかいはだめデスよ」


 次いで舌ったらずな声がひびわたる。

 電気がついていない暗い部屋なので、相手の顔は見えない。しかし、声からその人物が2人で、両方ともに若い女性ということだけはわかった。


「もう10日のちょうか分が発生してるわよ~。おねーさん、こんなばんな事したくないの。本当ならゆっくりベッドで寝たいのよ獣のようにベッドで殿方のアレを貪りたいの


 窓かられる月明かりが室内を照らす。そこでようやく目の前の人物達の顔をにんしきする。一人は身長が高く、たれ目でどこか男をさそうような印象をあたえる美人で、もう一人は身長が低く、あどけない顔をした美少女であった。


「ちょ、ちょっと待ってくれって……」


今すぐ払うか、臓器を取り出されるか選ばせてア・ゲ・ル……」


「おねーちゃん、可哀想デスよ。そんなに脅したら」


 身長が低い方の少女は口ではかわいそうと言うが、手に持つイカつい死神の鎌を連想させる大鎌をホールデンの首元にかざしている。


「ヒィイ!」


(な、なんてこった……少し魔が差しただけなのに、どえらい事になっちまった……)


「は、払いたいけど……もうお金がありません……」


 なおに白状したホールデン。すると、小さい方の子は大鎌を首からはなす。


(助けてくれるの……か?)


「そうなんデスね。ホールデンちゃんお金ないデスか……かわいそうデス……」


 そう言いつつもとして大鎌をホールデンめがけて振り下ろす。


「メアリーちゃん、待って!すぐに究極愛撫したら私たちが出てきた意味がないでしょう?」


 身長が高い方の子が手でメアリーと呼ばれた子を止める。


「そうデスよね、かわいそうなホールデンちゃんにはチャンスを与えましょうネ」


 チャンスと言っているが大鎌をホールデンの首にかけたままだ。ホールデンはあまりのことにこしかしていた。


「さて、ホールデンくん? 貴方あなたは借金の返済を故意に遅らせたって事でいいわよね焦らして焦らして焦らしたってことよね?」


 身長が高い方が長く細い指をホールデンの顔に妖しくわせながら言う。


「ひゃ、ひゃい……」


「国が定めた返済計画だと、どれだけ稼いでも手元に3万7830ルードが残るように設定されているよねぇ? 今月、ホールデンくんの給料は80万5500ルード。だから今月の返済分は76万7670ルードになるわ」


「す、すみません……先ほどもお伝えしたんですが、もうお金がない……」


 ホールデンはおそる恐るといった感じで再度同じことを告げると、目にも止まらぬ速さで身長の高い方の子がそうついの小さい鎌をホールデンの首元にきつけた。


「……あらあらあら? アタシのこと鹿にしてるのかしら? 同じ事を二回言わないと理解できない阿呆やマヌケド淫乱たぐいだと?」


「ヒィィ! そんな事全然じんもこれっぽっちも考えてないですぅ!!」


「ホールデンちゃんもこんなにおびえてマスし……もう少し優しくしましょうヨ」


(怯えてんのはお前の大鎌が俺の命をろうとしてるからだよ!)


「うふふ。そんなに震えて大丈夫おねーさんの言葉で感じちゃったの?」


(ギャンギャンに感じてるよ!! 死の危険をなぁああああ!!)


「貴方にお金がないのはあく済みよ。今日は、新しい返済計画快楽を伝えるために来たの」


「か、快楽でつか……」


「貴方が今月返さなければならなかったアソコから出さないといけなかった76万7670ルードはすでに期限が10日も過ぎているのよねぇ。それに対して超過分が加算されているので、今日の時点で貴方が返さないといけない分は307万680ルードよ」


「ぶふっ!! 307万680ルードぉぉぉぉぉぉ!?」


「ウチの国では借金のイキ過ぎた分はヒサンと決まっているのよ」


「ヒサンってなんなんだよぉ! さんってことなのかぁぁあぁ!?」


「ホールデンちゃん、ヒサンって日に3割の利息って意味デスよ」


 じやあく的な内容を伝えるメアリー。


「日に3割!? な、なんだよその暴利は!!」


 姉の方の、小さい2つの鎌がホールデンののどもとで止まる。


「ホールデン君、これはごう自得よ」


 ごく真っ当な事を言われ、グウの音も出ないホールデン。


「ヒサンはえん料76万7670ルードのみにかかるわ。だから心配しないでね」


「し、心配も何もすでにとんでもない金額だし……」


「貴方はこれを毎日返していく義務があるの。今月中に遅延料を含めた金額を返済できない場合、ホールデン君の全てを体を使って金に換えて回収させてもらっちゃうから気をつけてね」


「……か、体を使う?」


ホールデン君は健康体性欲旺盛みたいだから、心臓、胃、腸、小腸、十二指腸、空腸、回腸、大腸、もうちょう、虫垂、結腸、直腸、じんぞうかんぞう、副腎、たんのうすいぞうぞう、肺、ぼうこうせいそういんのう、精、ぜんりつせん尿にょうどう球腺すべてえぐり出して売ればいいお金になるわ」


 ようえんに、ホールデンの耳元でささやく姉。ホールデンは背筋を寒くする。


「正直、ソレは私も望まない事濡れないなのよ。だから毎日最低でも23万301ルードをはらってね。これを下回っちゃったら、貴方の温かいぞうを直接取りださなきゃだからね」


「はい! ふしょうホールデン・ドハーティ、文字通り命をして返させて頂きます!」


 直立不動になりハキハキと返答した。そんなホールデンの首元に大かまがかかる。


「ホールデンちゃん、心配しないで下サイ。もし払えなくても私がやさしくしますヨ」


 メアリーは大鎌の腹の部分をホールデンのほおに当てる。


「は、はひ!」


「メアリー、いくわよ」


 そう言われたメアリーは大鎌をもどすと、トコトコと姉の後をついていく。去っていく2人だったが、姉の方がとびらの前に立ち止まり、ホールデンの方に振り向いた。


「……そういえばまだ名乗ってなかったわね。アタシはクートヴァス・インク さいけん回収課所属【取り立て屋The Collect】のエミリー・ヴィシャスよ。以後よろしくね」


 エミリーはウィンクをした。


「同じく、クートヴァス・インク 債権回収課所属【取り立て屋】のメアリー・ヴィシャスですヨ。ホールデンちゃんよろしくデス」


 2人は自己しょうかいを済ませるとホールデンの部屋から出て行った。


「ずーるっ♫ずーるっ♫ずーるっ♫」


 メアリーは大鎌を引きずりながら出て行く。先ほど聞こえたのはメアリーの口から出るおんであったのかとそこで気がついた。


「と、とんでもねー事になっちまった……」

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