第四章 Time For Heroes④

せいだけは一流だなぁ! 弱いやつほどよくえるとはまさにテメェの事だ!」


 リチャードはその間腕でメグの胸をもてあそんでいた。


「それ以上2人に手を出してみろ! ただじゃ済まさない!」


「あん、じゃあこうしたらお前はどうすんだぁ?」


 そういうと、2人の上着を力任せに引きちぎる。白いはだせんさいな素材の下着があらわになってしまった。2人は必死にその辱めにえている。ティアはいっそ殺せと言わんばかりな表情で、メグにいたってはじんわりとなみだが浮かんでいた。

 ホールデンは後先考えず力任せに己の武器である鉄のハリセンをにぎとつしんした。リチャードの頭上めがけてハリセンを振り下ろした。


「なんだそりゃ? ハンデで目をつぶってやろぉかぁ?」


 リチャードは子供と遊ぶかの様にヒラリヒラリと身をかわし、やがてきると手刀でもってハリセンをたたき落とす。ホールデンは拳を握りリチャードに再度アタックした。


「もぉいいだろぉ!」


「がはっ!!」


 後方の壁まで吹き飛ぶと口からせんけつき出した。ゼロきよから放たれたすんけいあばらくだき内臓まで傷つけた。

 リチャードはその光景を見ると満足げにうなずき、動ける自分の部下の所に移動する。


「たくっ……使えねぇ部下ばっかでしょうがねぇな。おい、誰かこの女共をしばっておけ。俺が楽しんだ後はお前達にくれてやるからまだ手をだすんじゃねーぞ」


 ホールデンは虫の息であったがなんとか重い体にかつを入れ、よろよろと立ち上がる。


「ホールデン君……想定外イレギユラーみたいだ」


 サリーがいつの間にか近づいて来ていた。ホールデンほどではないが、ダメージを負った体にむちを打っている様がありありと伝わる。


「これを見て」


 差し出されたのはサリーの履歴書ウオークオブライフだった。そこには絶望的な情報がさいされていた。

 名前   リチャード・ケリー

 ねんれい   35歳

 職業   【古武術家The Obsolete Article

 職業価値  S


「職業価値S……」


 ホールデンは静かにつぶやいた。

古武術家The Obsolete Article】はレア職業ジヨブである。職業訓練学校ジユニア時代に勉強した内容を必死に思い出す。【古武術家】は人体に多数存在する秘孔をあやつり、様々な効果を発揮させる事ができる。例えば先ほどメグの攻撃を受け、しゆんに回復したのは、己のさいぼうを活性化させる秘孔を突き、常に回復状態にしていたからだろう。メグの動きをふうじたのも何らかの秘孔を突いたのだ。そして、【古武術家】はスキル名発声のみで、全てのスキルが発動可能であった。

 職業価値Sがいるとなると依頼達成難易度クエストアツプが一気にね上がる。推定依頼達成難易度クエストアツプ3~といったところだろう。明らかに新人が担当する案件ではない。これこそがヴィンセントが何度も言っていた想定外イレギユラーであろう。


「ホールデン君……ここはいつたん引いて、えんぐんを呼びに行こう」


 サリーはじゆうせんたくだと言わんばかりに顔を悲痛にゆがめる。その判断がどういった結果をもたらすか理解している様だ。しかし、そうしなければもっとさんな結末になると確信していた。


げる算段でもしてんのか? 別にいいぜ。気が変わった。この2人の体を早くたんのうしたいから、お前ら三下はどこぞにでも消えちまいな。出口はあっちだぞ」


 リチャードは鹿にした様に手で出口の方を指し示した。


「ホールデン君……くやしいとは思うけど、ここは耐えて次に備えないと……ヴィンセント社長も言っていただろう。『ゆうもうぼうを決してはきちがえるな』って」


 ホールデンはしゆんじゆんする。サリーの言う通り、ここでリチャードに立ち向かうのはさくである。この場を逃げ出してもだれからも文句を言われる事はないだろう。だがしかし──


「カシラが逃がしてやるって言ってんだからケツまくって逃げ出しやがれボケナス共!」


「俺らはこの女共と早くヤりてーからよぉ、お前ら早く消えてくんねーか!」


 あんきよの宿のメンバーがぞうごんを浴びせ、それぞれがいやしい表情を浮かべる。

 ホールデンの視界のすみにメグとティアの姿が映る。2人は小刻みにふるえていた。


「……っせえ」


「あん? 良く聞こえねぇよ。もっとはっきりしやべれ」


「うるせえって言ってんだよ!」


 ちくせきされたダメージで全身に激痛が走るが、お構いなしにホールデンはリチャードの前に立つ。その総身は今にもくずれ落ちそうなれ木の様にたよりない。しかし、心にあるその意志だけはどんなはがねよりもけんろうで、どんな財宝よりも価値があるものであった。


「悪いな。サリー。援軍はお前に任せた」


「ホールデン君……」


 サリーは難しい顔になりホールデンを見る。


「ここで逃げたら俺は自分を2度と許せなくなる。『勇猛』とか『無謀』とか知った事か! 俺がこいつらに立ち向かうのは誰かのためなんかじゃない、俺自身の為だ!」


 せつ

 ホールデンの意志に呼応するかの様に履歴書ウオークオブライフれんかがやきだした。ページが風を切り、あるページで止まる。そこには新しいスキルが発現していた。そのこうもくを読むとホールデンは笑った。


「新しいスキル? めんどくせぇ、使わせる前に始末するか」


 リチャードは先ほどまでの態度と違い、こくはくな表情で静かにつぶやく。


「サリー。リチャードの動きを数十秒くらい足止めできるか?」


「何か秘策があるのかい?」


「ああ。だからたのむ!」


 その瞬間、リチャードはホールデンに必殺のこぶしり出す。その拳を、ギリギリの所でサリーがぼうぎよした。


だっつてんだろぉ? テメェじゃ、俺を止められねぇよ!」


「止める事はできなくても、ほんの少しの時間ならかせげる!」


「テメェのせんたくは俺に向かって来た時点で終わってんだよぉ!」


秘孔ヴアイタルズ──丹田アドメン


 リチャードはサリーの下腹部にある秘孔を人差し指で突いた。その瞬間、げきれつな痛みが走りその場にサリーはこんとうしてしまう。

 稼げた時間は数秒。その数秒でホールデンはじゆもんえいしようしていた。


[──俺はせんぼうする……]


「時間稼ぎに仲間を捨てたか……無駄な足搔あがきだったな!」


 一瞬で数メートルのきよめるリチャード。後1小節でスキルは発動するのだが間に合わない。


(何かないか……何か……)


 その瞬間、ホールデンはおのれふところしのばせていたヴィンセントからゆずり受けたコインをリチャードの後方にはじいた。刹那、リチャードの意識は後方の1ルードこうに移った。


「1ルード硬貨の音がしやがる!」


 ホールデンはその機をのがす筈も無く、大声で残りの詠唱を唱えた。


[俺以外すべての職業ものを──俺がとうたつすべきその職業ものは……──]


 詠唱がかんりようする。そしてスキル名をさけんだ。


《──》


 と同時にリチャードはホールデンの秘孔を突こうとした。

 しかし、その指はホールデンには当たらない。なぜならリチャードの目の前からホールデンが消えていたからだ。しかし、リチャードはあせったりをじんも感じさせない。


「そっちなんだろぉ!」


 リチャードは方向を真後ろに変えた。そこには紅蓮に染まるひとみをしたホールデンがいた。


「はっ! ステータス値じようしようのスキルかぁ? けいかいする必要もなかったみたいだな」


 と、リチャードがちようしようめた言を投げつけると、目の前からホールデンが姿を消した。


「こっちだ」


 あらぬ方からホールデンの声が聞こえてくる。そこにはりよううでにメグとティアをかかえたホールデンが立っており、ホールデンは2人をかべぎわかせる。


「……どんなカラクリだ? 俺と全く同じ速度だと……」


「お前が見えなかっただけでこの一瞬で自分をきたえたんだよ」


「いい気になるなよ! 確かに早いが、追えねぇほどじゃねぇよ!」


「それは当然だろーな」


 リチャードは手足の関節を鳴らし、こしを深く落とした。両の手を強く握り込み構える。


「お前ごときに力を使うのはもつたいないが、そのつらきようで歪ませたくなった」


「ならの力を見せてもらうぞ」


 ホールデンはそういうと、せんとう態勢に入る為に構えをとった。


「……なんの真似まねだそれ?」


「なんの真似って、戦うんだから構えてるのがそんなに不思議かよ?」


 ホールデンの構えはリチャードの構えとそっくりそのままであった。小馬鹿にされたようで、リチャードは忿ふんまんやるかたないといった感じだ。


「はっ! 力じゃ勝てねぇから、俺の構えを真似して馬鹿にする事しかできねぇ訳だ」


「ならためしてみろよ」


 その言葉が起点となり、リチャードは地をり砕いた。先ほどまでのお遊びのスピードではなく、無しの己が最高速で望む。

 ホールデンを射程に据えると深くかがそうたいを繰り出す。ホールデンはそれを当然の様に軽くジャンプしてかわし、着地するとリチャードののどぼとけめがけて一本きを繰り出した。

 その突きを、リチャードは顔をひねってかいし、その反動のままホールデンの後頭部へうらけんをみまう。しかし、ごうぜんせまりくる拳をホールデンは難なくつかみ、関節とは逆方向にいつぱいひん曲げる。リチャードはせきずい反射の様に曲げられた方向に体ごと回すと、ホールデンのこうそくを解いた。そこでおたがい距離を取る。

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