序章 聖女の伝説

 資源にとぼしく、農耕にも向かない、地図からも存在を忘れられたような小さな国があった。

 数年にわたってきようさくわれ、せ細った土地を前にたみは貧困にあえぐ。

 ある時、ひとりのむらむすめが、そんな現状をなげいて川辺でなみだを落とした。背中まであるかみは、見事な青色をしている。ひとみは右が赤で左が緑という、あざやかな色をまとって生まれてきた美しい少女だった。

 少女は神にいのる。自分の命をささげる代わりに、国を豊かにしてほしいと。

 神はその願いに心を打たれ、少女が流した三粒つぶの涙を、彼女の纏っていた色の宝石に変えた。

 しきさいを失った少女の髪と瞳は、どの色にも二度と染まることのできない黒へと変わってしまったが、彼女のけんしんによって宝石を産出できるようになり、国は豊かに生まれ変わった。

 少女は救国の聖女と呼ばれた。しかしいつの間にか、少女の姿は消えてしまったという。

 人々は語る。

 ──もし再び国がかたむいた時、聖女がこの地に舞いもどるだろう。聖女の流した涙は、やがてせきとなって大地を照らし、あまねく民を救う。


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