✕(Cross) Childs

牛板九由

第1話 Prolog1

 光消えぬ街東京。その街の中心新宿の一角、歌舞伎町。

 夜になってから栄えるビル群のとある一階に外に聞こえる程の歓声をあげる店があった。

 ホストホステスクラブ『ROCK'N'ROCK』。

 歌舞伎町という夜の店が多い街でも珍しいホストとホステスがいる店。この店は男女で入れる店と評判高く、政財界のみならずヤクザなどの裏社会の人が多く集まる店である。

『ROCK'N'ROCK』は現在とあるイベント中である。

『ROCK'N'ROCK最強戦』。

 店にいるホストたちキャストから裏方の男性スタッフによる店内最強の男を決める大会。年二回あるこの大会は五月に第一回目が行われる。

『白熱のバトルはまだ終わりません。準決勝第二回戦、リクVSゆっきー。両選手は前に』

 名前を呼ばれた二人が店の真ん中にある特設ステージに立つ。特設ステージと言ってもテーブルと椅子を退けて空けたスペースだが。

 店内はいつもよりも照明を暗くし、特設ステージだけライトアップして、客に注目させる。

『リクは前回、前々回を優勝した店最強の相手は入ってまだ二ヶ月のゆっきーだ。前代未聞の初参加で準決勝まで駒を進めたゆっきーはどうリクと戦うのか見ものだ』

 必要なのかと疑問に思う実況者に会場は盛り上がることなどない。それでも確実に目が鋭くなった。

 その観衆のなか、リクとゆっきーは向き合った。

「リクさんとは決勝で当たりたかったな」

「確かに決勝戦まで上がりたいと思うものだからね」

「うん?違いますよ。準決勝で最強に当たったら決勝は弱い人ってことですよね?」

「あ?なになに、俺に勝てるとか思ってんの?」

「あたり前田のクラッカー」

「てめぇ、調子乗るなよ。ぶっ飛ばしてやる」

 ゆっきーの全力の挑発に青筋を立てるリク。ゆっきーは余裕そうに笑みを浮かべているのに対してリクは今にも襲いかかりそうな程剣幕な表情をしている。

「おいおい、安い挑発に乗るなよ」

 外野にいるキャストからの一声に我に返るリク。

「そうだよな。まぐれでここまで上がって来たような奴に俺が負ける理由がねぇ」

 壮大に開き直るリクにゆっきーは更なる挑発はする。

「まぐれな理由ないじゃないですか。何なら試してみます?」

 ヘラヘラと笑うゆっきー。それでも目だけは獲物を狩るように鋭く光っている。

 それを知ってか知らないか、リクは挑発に乗ることなく至って平静を装っている。年上であるという威厳を失わないように。

「まあまあ、そんな急ぐなよ。そうだ、最初の一発はくれてやるよ」

 リクは腕を広げてかかってこい、と言う。

「お、カッコイイですね。ならお言葉に甘えて、一発で終わらせますね」

 ゆっきーは言い終わるとすぐにリクに向かって走り出した。十歩もしないでリクの目の前まで肉薄すると、勢い殺すことなく右腕を顔に伸ばす。

 当たる寸前でリクは顔を後ろに引いた。

 ゆっきーの右腕は振り抜いたときとは違う、不自然に下に落ちていく。

 リクはカウンターを狙って視線を前に向けるとすぐ目の前にゆっきーの後頭部があった。

 咄嗟に頭を左に振ると右肩に激痛が走った。

 ゆっきーは前宙踵落としをしたのだ。その後体勢を崩すことなく着地すると、数歩下がって距離をとった。

「あらら、避けられるとは」

 ゆっきーはそう言うものの、リクは右肩に手を乗せ苦痛に顔を歪めている。

 おおお、と今大会一番の歓声があがる。

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