本編に出てこない話・没になった話・没キャラ

没ネタ①

倉庫の主のエンジンを始動できた場合の話。

なろうと同じ展開だと面白く無いかと思ってカクヨムでは

エンジンが掛からずに話が進んでいます。


以下は『119話 磯部・挑戦する』で、エンジンが始動した場合の話


   ★   ★   ★


トーストとサラダ、ハムエッグ。そして無花果ジャム入りヨーグルト。

しっかりと朝食を食べ、磯部さんはトレーナーにジャージ。

動きやすい格好に着替えた。

俺が中学生の頃に安曇河中学にこんな格好の先生が居た。

体育じゃなくて数学の先生だったけど。もう定年だろうなぁ。


体調は戻ったらしい。顔もいつもと同じフルメイクだ。

今週一杯は念の為に休むらしいけど、動きたいらしく倉庫でゼファーを磨いている。


「生産終了して10年は経ってますよね?キレイやなぁ」

「一目惚れした相棒だもん。お婆ちゃんになっても乗るわよ」


何か声が聞こえた気がするけど倉庫には2人しかいない。店を見るが

お客さんが来ているわけでもない。空耳だろうか?最近、話し声が聞こえる気がする。バイクの怨念かもしれない。何台も分解したからそのうち化けて出てくるかもしれない。


「さてと、今日こそ動かすぞっと」 

磯部さんは張り切っているけど無理やろう。どうせ何も起こる事は無い。


『倉庫の主』のキーをONに。ニュートラルランプとスタンドランプが点く。

チョ-クを引いて上死点を少し過ぎてからキック・・・かからない。


「な、かからへんやろ?」

「う~ん。何も変な所は無いんだけどなぁ」


そのあと磯部さんは何回か始動を試みるがエンジンは目を覚まさない。

気が済むまで放っておくことにして仕事にかかる。


宏和の所の絵里ちゃんに作ったリトルカブの部品取り車を処分。

取れる部品は全部剥がして書類の無いフレームはリサイクル業者が回収しに来るので廃品置き場にまとめておく。鉄とアルミを分けておくと喜んで持って行ってくれる。


店の前にトラックが停まる。


「お届け物で~す」

「ご苦労さん」


ハンコを押す。届いたのは折りたたみ自転車だ。

進路が決まった学生たちに結構売れる。シーズンになって仕入れようとすると

品薄で入荷が遅れるかもしれないので売れ筋だけ何台か入れておいた。


エンジンが掛からないのにキックばかりしているとスパークプラグが被る。

試しに俺がキックをしてみると・・・やっぱりかかる。


「魔法を使っても良い?」

「魔法?良いで。何でもやってみ」


「じゃあ大島さん。目を瞑って。動かないでね」

「何をするんや?」


目を瞑っていると気配が近付いて唇に柔らかい感触が・・・


「映画を真似してみたの・・・」頬を赤くして彼女は言った。


何の映画?そんな話は知らん。


「ファーストキスだったの…」モジモジしながら言う磯部さん。


「そういうもんは大事な時まで取っとけっ!」


ファーストキス?重すぎや。エンジンとは関係ないやろ?

それでエンジンが掛かったらバイク屋はお終いですよ。


「大島さんに掛けられた呪いはこれで解けたはず」

「何の呪い?」


生まれて40年余り。未だに女性の考える事が分からない。

キスとエンジンの繋がりなんか無い。キスで解けるのは豚になる魔法だ。


空を飛ぶ豚のな。


磯部さんは再びエンジン始動の手順を踏む。イグニッションON

ニュートラルランプ点灯。チョークは少し引いてキックスタート。


「私と中さんは仲良しよ。動きなさい」

「かかるわけないがな」


プルン・・・プルン・・・プルン・・・プスッ


「ほら見てみぃ。大事なもんをこんな所で使うてしもて」

「お尻に比べたら・・・」


プルン・・・プルン・・・プルン・・・パスンッ

(ん?火花が飛んだか?)


「ゴリラさん。動いて」


プルン・プロンッ・トントントントン・・・


「ホンマかいな・・・掛かったで・・・」


「だから言ったでしょ?乙女の祈りは凄いんだから」


「乙女のねぇ」


魔法が効いたのはゴリラだけじゃないらしい。


笑顔で振りむいた彼女は・・・息をのむ程に美しく見えた。


その日の夜。


「あ…あたるさん…凄い。気持ち良い…」

「あまり大きな声は出さないで」

「あ…凄い…もっと…もっと強く…」


大島は磯部の上に乗り、全力を振り絞っていた。力強く磯部を突き続ける。

最初は優しく柔らかく。だんだん強くリズミカルに…


「あ…ちょっと痛い…痛い…そこは痛いっ!駄目っ!」

「磯部さん、もしかして初めて?」

「うん、だから、優しくしてね…」


磯部の為に大島は出来る限りのテクニックを使い彼女を満足させようとした。

最初は少し痛いかもしれないが、なるべく痛みが和らぐように、


磯部が痛がって泣いたりしない様に。時には強く、時には浅く。


大島の指はリツコの快感のツボを刺激し続けた。


磯部も大島を受け入れる。大島の繰り出す技の数々を受け止めた。


「ああっ凄いっこんなの初めてっ!あたるさん…もっと…もっと!」


ギシギシと床がきしむ。

「なんでキスしたらエンジンが掛かると思ったんですか?」

「だ…だって…中さんと仲良くなればバイクに認められるかなって」


「非科学的やな」


大島の手が優しくリツコを揉みしだく。


「ああ…そ…そこはっ…ああっ!」


(エッチな声やな…)


最初は痛かったのが徐々に解ほぐれていき快感へと変わる。


「あ…んっ…あ~っ!」


磯部の背筋が反る…そして…


ゴリゴリゴキッ


耳年増のリツコは『手先が器用な男はテクニックが凄い』と聞いていたが

まさか大島がここまでのテクニックを自分に発揮するとは思っていなかった。


「はい、おしまい。どうですか?スッキリしましたか?」

「ハァ…ハァ…あたるさん…凄い♡」


30年間生きてきて、初めての体験だった。めくるめく体験とはこの事だろう。


「ハァ…ハァ…あ…熱い」


「病み上がりで何回もキックするから腰を痛めるんやで」


リツコは知らなかった。大島が指圧・マッサージの名人であることを。


特に最後の背筋を伸ばすマッサージが良かった。

バリボリと音をたてて伸びる背筋。頭がすっきりした気がする。

血行が良くなったからだろう。何だか体がポカポカする。


「母親が肩こりの酷い人やったから。揉んでいるうちに覚えたんや」

「いや~病み上がりで急に動くもんじゃないわね~」


ほぐされてすっかり柔らかくなったリツコはぐっすりと眠った。


   ★   ★   ★

※作者コメント


『読もう版』はこんな感じで、大島宅の空き部屋に下宿してくる流れな訳です。

カクヨムでは大島の孤独さとリツコ以外の人物が引き立つ様に下宿はさせませんでした。大島が少し可哀そうな展開になっています。


ところが、設定集のPV数はリツコが断トツ。

他の登場人物のPVを大きく離して独走状態です。


こっちでも下宿させた方が良かったのかなぁと思っていましたが、結局下宿させてしまいました。同じ屋根の下で男女が暮らした結果は本編にて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る