第三十三話:主と従者、管理者と守護者
「さあ、
「……そう言われて、私が頷くと思う?」
どんなに綺麗な笑顔でそう言われたって、キソラははいそうですね、と肯定する気は無かった。
はっきり言って、即席であろう柵を破り、蛇を倒すことなどキソラにとっては迷宮管理者と空間魔導師の力を使えば造作もない。
「っ、」
だが、ここにはアークがいる。しかも、つい先程はぐらかしたため、下手に空間魔導師としての能力を使うわけにはいかない。
(一体、どうすればっ……)
「こんのっ……!」
自分が狙われていることを理解しているのか、勢いを受け流したりしているアークだが、それも時間の問題である。このままでは、フィオラナの攻撃で本当にアークが死んでしまう。
「フィオラナ。貴女、私の管理下に入りたかったんでしょ? それなら、入れてあげるから、攻撃するのは止めて!」
そう告げるキソラだが、フィオラナは攻撃の手を緩めることはない。
「がはっ!」
「チッ」
「アークっ!」
アークは腹部に攻撃を受けるが、フィオラナは舌打ちし、キソラは再度叫ぶ。
――早くしないと。
焦りばかりがキソラを追い詰める。
――あの時みたいに。
「また、失うの……?」
過去の出来事があるだけに、キソラとしては友人を、仲間を、大切な存在を、もう二度と失いたくはない。
だが、キソラの中の――空間魔導師としての能力使用という迷いが、その手を立ち止まらせる。
(バレたって、いいじゃない)
いずれは知られるのだ。それが今に早まっただけ。
そう考えれば、どうってことない。
アークは驚くだけで、どうもしないと言ったではないか。
「信じても……ううん。信じるよ、その言葉」
そう小さく呟いたキソラの足元に、魔法陣が展開される。
「マス、ター……?」
やや怯えながらも不思議そうなフィオラナに、キソラは無視して魔鎌を手にすると、そのまま横に一閃する。
「なっ……」
あっさりと破壊され、絶句するフィオラナに、キソラは歩みを進め、目の前に立ちはだかる蛇と対峙するも、それも次の瞬間、柵と同様に一閃しただけで倒す。
「アーク、大丈夫?」
「あ、ああ……」
心配そうにしながら駆けつけてきたキソラに戸惑いつつも、アークは何とか立ち上がりながら返す。
「さて、フィオラナ」
キソラはアークに向けていた視線とは別に、冷たい冷酷な目を向ける。
「私をあまり怒らせないで」
淡々と告げられた言葉に、フィオラナも震えながら口を開く。
「な、何でそんなに怒って――」
「自分が何をしたのか、分かってないの?」
キソラはそう問い詰める。
「そ、れは……」
自分が何をしたのか、彼女を怒らせるようなことをしたのか。
――してるじゃない。この子の友人を傷つけた。
「っ、」
突然聞こえてきた声に、フィオラナは歯を食いしばり俯く。
(傷つけた? 誰が誰を? 私が、彼を? 彼女の仲間を?)
一人、自問自答する。
「なあ、キソラ」
「何?」
アークの呼び掛けに、振り返らずに尋ねる。
「お前、いつもと違うぞ」
はっきり言って、今のキソラはフィオラナとは別の意味で怖い。
「そうかもね」
普段のキソラなら「そう?」とでも返してきそうだが、今のキソラは否定することも間を置くこともなく肯定した。
「そうかもね、って……」
「
その言葉で、アークは一瞬固まるもののすぐに我に返ると、フィオラナに目を向ける。
「相、棒……?」
フィオラナがぽつりと呟く。
「相棒って、何? 何なの?」
俯いていたフィオラナが顔を上げ、歪んだ表情で尋ねる。
「貴女たち兄妹が頼れるのは私ぐらいしか、いないはずでしょ?」
「……」
「それなのに、相棒って何なの!? 私より、そこにいるどこの馬の骨かも分からない奴を相棒って――ッツ!」
キソラに言葉を遮った上に刃先を向けられ、フィオラナは息を呑む。
「そこまでにして。次は手加減できる自信がないから」
「な、何でそこまで……」
彼を
フィオラナはそう尋ねる。
「フィオラナが気にすることじゃないし、私たちの件は関係ない。棚に上げるつもりも棚上げするつもりもないけど、私にとって、今はこの状況の解決が最優先事項だから」
「解決って――」
「だから、聞くね」
キソラは尋ねる。
「私たちと会う前に、誰か――いや、
確かにフィオラナはキソラを恨んでいたのだろうが、それだけで偶然にも隣にいたアークまで殺そうとはしないはずだ、とキソラは思ったのだ。
けれど、実際にフィオラナはアークを殺そうとした。
そこからキソラが考えたのは、迷宮『白亜の塔』の守護者であるフィーリアの件。もし、それと同じか似たようなことが起こっていたと予想するのなら、無理やりとはいえフィオラナの有り得ない憎しみの矛先がアークに向いたのも納得がいく。
「それ、は……」
言い淀むフィオラナに、キソラは彼女が答えるのを待つ。
「確かに、無かったわけじゃないけど……」
「そっか」
フィオラナの言葉に、キソラは納得したかのように息を吐く。
「どこまで私と守護者たちを愚弄するつもりなのか。はっきりさせてほしいものね」
フィーリアもフィオラナも自身の迷宮を守っているだけなのに、なぜこのような扱いを受けなければならないのか。
迷宮管理者としてはまだ未熟で、手が届かないところもあるが、それでも許せないものは許せないのだ。
「キソラ?」
「しかも、よりにもよってフィオラナの迷宮にまで、手を出してくるなんてね」
良い度胸じゃねぇか、と呟きながら、うふふ、と笑みを浮かべるキソラに、アークとフィオラナは顔を引きつらせる。
「もしかして、知り合い、だった?」
「んなわけがないでしょ。あいつはフィーリアにも手を出したのよ!? 次会ったら必ずぶっ飛ばす」
それを聞いたフィオラナは、「そ、そう」と戸惑うように返すが、でも、と続ける。
「事情は分からないけど、何か関係があるの?」
「それは、貴女のその私に対する感情が、いつ起きたのかによるわね」
愛情、憎しみ、怒り、悲しみ。
フィオラナの感情が強くなったのは、奴が現れてからではないのか。
もし本当にそうなら、フィーリアの時のように憑依体や異常な感情を切り取る必要が出てくる。
(厄介すぎて、腹が立つ)
下手をすれば、フィオラナの感情全てを排除しかねない。厄介この上ない問題である。
しかも、キソラにはそのような経験がないため(迷宮管理者でも空間魔導師でも滅多にやる者はいないが)、絶対に失敗できない。
だが、キソラの考えなど知らないフィオラナはふうん、と返す。
「でも、どんな状況下であろうと、貴女が私のものであることには変わりないわ」
「だから、私を怒らせるようなことを言うな。そもそも、私は誰のものでもねーよ」
そこだけはきっちりと線引きするキソラ。
それを聞いたフィオラナがニヤリと顔を歪める。
「それって……やっぱり、そこの馬の骨のせい?」
「馬の骨言うな。それ以上言うなら、本気でぶっ飛ばすよ」
本当に、何故挑発するような言い方をするのだろうか。
しかも、これでは最初に逆戻りではないか。
(それでも……)
それでも、キソラにとって、自身や母親が管理していた迷宮の守護者たちは家族のような存在だ。
だから、このような状況は見過ごせないし、フィオラナを元に戻したい、と思うのだ。
キソラは目を閉じ、軽く息を整える。
(たとえ、その方法が難しくても、やるしかないよね)
目を開き、フィオラナに目を向ける。
(だから、力を貸して。お母さん)
今は魔鎌となっている相棒に手を添え、そう願う。
「フィオラナ。ここから先の相手は、私がしてあげる」
「嫌よ。私、
「ご心配なく。貴女の攻撃は私には届かないから」
「随分な自信があるようだけど無駄。私のは必ず届く」
キソラとフィオラナが互いに睨み合う。
そんな二人に口を挟まず、見守るアーク。
今下手に口を挟めば、どうなるか分かったものではない。
「それでも、自信があるというのなら、始めましょうか」
フィオラナが笑みを浮かべた。
☆★☆
「よっ、と」
「やっと着いたね」
少し離れたところで二人を見ていたアークだが、気配を感じ、そちらに目を向ければ、それはオーキンスたちだった。
「え、何、この状況」
リリゼールの問いに、アークはここまでの経緯をできるだけ説明した。
「……そっか。あの人の守護者か」
「何というか、縁があるというべきか」
キソラとフィオラナの戦闘を見ながら、そう感想を口にするリリゼールとオーキンス。
キソラの母親と知り合いであるだけに、キソラが母親が管理していた迷宮の守護者と戦うというのは、何とも言えない。
「でも、物凄くやりにくそう」
「当たり前だろ。
オーキンスの言っていることは間違っていない。
キソラの場合、“フィオラナを倒す”というより、“フィオラナを助ける”という意味合いの方が強いのだから。
逆に分かりやすいぐらいの敵といえる相手なら、キソラは本気で容赦なく叩き潰しに行くだろう。
「でも、今回は違う。相手は身内だ」
キソラにとって、やりにくいのは友人や仲間、身内の面々だ。身内の中には、もちろん迷宮の守護者たちも含まれる。
いくら今は違うといえど、以前は身内同然のフィオラナが相手なのだ。やりにくいのは当たり前である。
「大丈夫だ。キソラなら」
アークの言葉に、二人はキソラに目を向ける。
「ああ、そうだな」
「あの子は、変わったからね」
だから、不可能に近いことでも、成功させるだろう。
たとえそれが、『感情の一部を取り除く』ということに関しても。
「だって、あの子は――」
迷宮管理者であり、空間魔導師であるキソラ・エターナルだから。
☆★☆
魔鎌から双剣に変え、フィオラナの攻撃を左右で相殺する。
空間の歪みから、オーキンスたちがこの場に来たことをキソラは感じ取っていたが、彼らに話し掛けられるほどの余裕はない。
タイミングを間違えれば、フィオラナは全ての感情を失う。
『落ち着け』
「落ち着いてる!」
そう言う奴に限って落ち着いてないのだが、今は関係ない。
四聖精霊であるノームと精霊憑依した今のキソラの外見は、ノームと同じ茶髪になっている。
なお、キソラがノームを選んだのは、単に彼が細かい作業を得意としているためだ。一部の感情の排除という細かい作業をするなら、フィオラナの攻撃も防げるほどの実力もあるノームに力を借りようと思ったのだ。
「鬱陶しい……!」
手にした双剣を振り、キソラはフィオラナの攻撃の軌道を逸らす。
『フィオラナ、もう止めんか!』
「嫌よ」
ノームの言葉に、フィオラナは即答する。
普通なら、以前のウンディーネや今のノームのように精霊憑依した状態だと、言葉や思念は相手に聞こえないのだが、フィオラナの場合、同じ守護者なのか変化前の迷宮が似たような迷宮だったせいなのかは分からないが、彼女には声が聞こえるようなので、ノームが制止を訴えたのだが、結局彼女は聞く耳を持たなかった。
『っ、主殿。やはりフィオラナは――』
「分かってるから、貴方にしたんでしょうが。それとも、ついに
『まさか』
キソラとノームはフィオラナに目を向ける。
(タイミングも兆候も繰り返し確認したし、そのためにわざわざ見送ったんだ)
双剣を魔鎌に変える。
『安心なされよ、主殿。我もついておる』
相変わらず、見た目や声、話し方が一致しないが、その実力はキソラがよく理解している。
「やるみたいだな」
見守っていたオーキンスがそう口にする。
「このっ、」
「無駄」
フィオラナの攻撃を再び一閃し、二人は歩みを進めていく。
「ちょっ、待っ……」
「待たない」
さすがに不利だと理解し始めたのか、フィオラナは手を前に出しながら一歩ずつ下がり始めるが、キソラは足を止めない。
「何で、何でっ……!」
『どんな理由があろうと、主殿の意志に反したことをお前さんはしたんだぞ?』
ノームの言葉に、フィオラナは怯えたような目を向けながら、少しずつ告げ始める。
「だ、だって私は……」
約束したから。
『あの子たちをお願いね。フィオラナ』
彼女たちの両親に何かあったら、代わりに護ってくれ、と。
「約束したからっ。ノゾミと! 貴女の母親と!」
それを聞いたキソラの動きが止まる。
『主殿?』
「キソラ?」
いきなりのことに、ノームとアークが訝る。
「……お母さんと?」
「そう!」
キソラの尋ねるような言い方に、これが好機と思ったのか、フィオラナは肯定の意を示す。
言い訳のようになっても構わない。
今まで触れられなかった分、目一杯触れたかったのは事実だから。
時が経てば、自分の迷宮は管理下に置くことは出来るだろう。だが、愛情を与えるということは、年月が過ぎるだけではどうにもならない。
「……全く、それを先に言いなさいよ」
「え……」
『主殿!?』
溜め息混じりに言うキソラに、思わぬ返しに呆然とするフィオラナ。ノームはノームで驚いていたが。
「怒って、ないの……?」
「怒ってないよ」
でもね、とキソラは続ける。
「人の記憶を――」
そのまま、魔鎌の刃を振り上げ――
「勝手に覗くんじゃねーーーー!!」
思いっきり振り下ろす。
『な、んで……』
自身の中で、何かと何かが断ち切られるかのような感覚がフィオラナを襲うも、次に彼女が感じたのは、水面からどんどんと底に沈んでいくような、外から自身を見ているような既視感。
(ねぇ、何でなの?)
信じていた者に裏切られたような気分ではあるが、尋ねずにはいられなかった。
(ねぇ、何で――)
怒っていないと言いながらも、刃を向けたキソラの行動の意味がフィオラナには分からなかった。
『フィオラナ!』
声が聞こえたと思った瞬間、声の主と伸ばされた手にフィオラナは気づく。
『あ……』
声の主が誰なのかを理解した。
この場に来られる者など、彼女以外には有り得ない。
『早く、手を伸ばして!』
必死に手を伸ばすキソラだが、フィオラナは手を出さない。
『早く! フィオラナ!!』
今度は叫ぶようにして言うが、それでもフィオラナは手を出さない。
『このっ……!』
分からず屋が、とキソラは言いたくなった。
ただでさえ時間が無いのに、このまま戻っては失敗したも同然だ。
(こうなったら――)
強行手段である。
『『光すら当たらぬ名も無き迷宮よ』』
『え――』
フィオラナがキソラの方へと目を向ける。
『『迷宮の異変 守護者の身に起きし事 我の力となれ』』
キソラはまだ止めない。
『『迷宮管理者 キソラ・エターナルの名において命じる』』
これは、命令であり願いであり祈り。
全ては
『『新たなる解放と守護者に祝福を!』』
言い終わると、キソラの背後から光が射し込み、フィオラナの身体も光り出す。
『フィオラナ』
『っ、』
未だに手を伸ばし続けるキソラに、フィオラナがよく知る人物の姿が重なる。
(ノゾミ……)
『フィオラナ、ごめんね』
『違うっ。頼まれたのに、守れなかったのは私の責任だから……』
『気にしないで。これからだって、出来ることなんだから』
――だから、泣かないで。次は、次こそはあの子の力になればいいのだから。
よく知る人物の姿が消え、キソラの姿がフィオラナの目に映ると、
『ごめんね』
そう謝り、彼女の頬を涙が流れていった。
「……ラナ、フィオラナ!」
「っ、私――」
目を開けば、真上にあったキソラの顔を見て、フィオラナは後ろめたそうな表情をしながら顔を逸らす。
「良かった。失敗したかと思った」
「失敗……? 何のこと?」
一部の記憶に靄のようなものがあって思い出せないが、それでも、ずっと願っていたことが実現できたのだ。記憶の一部が思い出せないことぐらい、許せてしまえそうである。
『全く、主殿が成功させてくれたから良かったものを……まあ、記憶が残っているのは嬉しい誤算だが』
だが、とノームは続ける。
『先代迷宮管理者の管理していた迷宮の守護者なら、『守護者通信』が来ていたはずだろ? 気づかなかったのか』
「ええ、確かに来てましたよ。でもまさか、あんな方法で来るとは思いませんでしたが」
フィオラナが言うには、キソラと似たような姿をして、目の前に姿を現したらしい。
「チッ。次に会ったら、本気で
「今の、舌打ちするとこ?」
キソラの言葉に、リリゼールが苦笑する。
「というか、キソラに似てるって……」
「女装か」
アークの言葉に対し、オーキンスがそう言えば、「ぷっは」とリリゼールが噴き出す。
「それか単に中性的な見た目なだけかも」
それならそれでも構わないのだが、キソラの不機嫌さが上がるだけなので、話題を逸らす。
『それはいいとして……フィーリアの時は人格憑依だったか?』
「そうだよ。で、フィオラナが感情操作。全く、段階が厄介になってきてる」
「それをどうにかできちゃうキソラもキソラだよねー」
ノームの確認に頷きながらも、再度舌打ちしそうなキソラに、リリゼールがそう告げる。
「次もどうにかできるとは限りませんがね」
そう言いつつ、リリゼールを軽く睨みながら、キソラは返す。
「それで、迷宮はどうするんだ。以前とは様変わりしたんだろ?」
「とは言われても、やったのはフィオラナだからね。戻すのなら、フィオラナにやってもらわないと」
全員の視線がフィオラナに向く。
「元には戻すけど……」
フィオラナの目はキソラに向けられる。
「もう攻略済みだから、貴女の許可さえあれば管理下には置けるけど?」
「許可がいるなら今すぐ許可する。他の管理者の下は嫌です」
キソラ以外は嫌だとはっきり言うフィオラナに、やや顔を引きつらせるキソラ。
今は落ち着いているが、後で元の性格に戻るだろう。
軽く息を吐き、分かった、とキソラは返す。
なお、今の迷宮では完全に管理下には置けないため、仮契約となり、元に戻した後に本契約として、完全にキソラがこの迷宮の管理者となる。
『では、主殿。我はそろそろ返らせてもらうとしよう』
「ん、ありがとう。また喚んだときはよろしく」
それに頷くと、ノームはその場から姿を消した。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「そうですね。でも、冒険者の人たちはどうしよう」
オーキンスの言葉に頷きつつも、キソラが冒険者たちの現在地を確認すれば、罠ゾーンやモンスターゾーンにいる冒険者を感知する。
「なら、途中で拾いながら、入ってきた場所に転移させちゃえば?」
「うーん……」
リリゼールに言われ、思案する。
別に居場所が分かっているため、転移させられなくもないのだが、きちんと見てない分、失敗する可能性もある。
「フィオラナ、確かここにもモニター室があったよね?」
「あ、うん。こっち」
起き上がったフィオラナの案内で、面々はモニター室に移動する。
「えっと……」
フィオラナとともにキソラが操作すれば、モニターの画面が次々と変わっていく。
「あ、いた!」
「これは……罠ゾーンですね」
リリゼールの言葉に、フィオラナが場所を特定していく。
「あそこにもいたぞ!」
「あれは……モンスターゾーン?」
次のオーキンスの言葉にも、フィオラナが特定していく。
「でも、これで行けるわよね?」
「場所が分かった以上、問題ないよ」
リリゼールの確認に頷けば、罠ゾーンとモンスターゾーンに向かうために、モニター室を出る。
「フィオラナ」
「何?」
キソラの呼びかけにフィオラナが首を傾げる。
「私たちそのまま帰るかもしれないから、その……また今度ね」
その言葉に目を見開くフィオラナだが、次の瞬間、キソラたちの姿はそこには無かった。
「……」
しばらくの間、呆然としていたフィオラナだが、ふっと笑みを浮かべると、
「あの子も、貴女と変わらないわね。ノゾミ」
空も見えない天井に目を向け、そう告げた。
そして同じ頃、キソラたちは冒険者たちを順調に回収し、最初に入ってきた場所へと戻ると、そのままギルドへと戻るのであった。
☆★☆
「ただいま戻りましたー」
そう言いながらギルドに入れば、バタバタという音とともに、
「キソラさぁぁぁぁん!!!!」
ギルド長が飛んできた。
「ちょっ、苦しい」
抱きしめてくる腕を軽く叩きながら訴えるが、話してもらえる気配がない。
「無事で良かったです」
「かなりボロボロだけどね?」
勢いそのまま泣きそうなギルド長に、苦笑いしながらキソラはそう返す。
「ギルド長ってば、貴女たちが行ってから、ずっと落ち着きが無くってね」
マーサがギルド長の後ろからそう告げる。
「ちょっ、それ今言わなくてもいいじゃないですか!?」
バッと顔をマーサの方に向けるギルド長だが、マーサの目は冷ややかだった。
「とりあえず、彼女から離れてください。換金も出来ないし、話も聞けませんので」
「キソラさん、大丈夫ですか?」
「問題ありません。というか、さっさと離れてください」
それを聞き、不安そうなギルド長は仕方がなさそうに離れていく。
「行く前とは大違いだな」
「両親の件がありますからね。私たちが無事だと分かり、安心したんだと思いますよ」
オーキンスの言葉に、キソラはそう説明する。
時折、迷宮で亡くなったキソラの両親のことを気にする
そのため、キソラが迷宮管理者としての仕事をやっていても何も言われないが、迷宮攻略となれば話は別らしく、フィオラナの迷宮に行くときと同様に、心配そうにしてくるのだ。
「気持ちは分からなくはないけど、
リリゼールの言葉に苦笑いしながら、換金受付へと移動する。
リリゼールの言う“本人”が誰のことなのか、キソラには分からないが、少なくとも自分も含まれていることは理解できた。
「でも本当に、無茶するわね。未知の迷宮って言っていたから不安だったけど、無事に帰ってきてくれて何よりよ」
換金受付に回ったらしいマーサにそう言われ、キソラはあはは、と笑みを浮かべる。
「まあ、そうですね。私が助かったのは、冒険者の人たちに付き合ってもらったおかげかもしれません。それでもどっちみち、調べる必要があった上に、私が見に行く必要もあったわけですから」
それを聞いたマーサは何か言いたそうにしながらも、頭を振り、言うのを諦めると、仕事として報酬を支払う。
「一応、これで任務完了、かぁ」
リリゼールが疲れたと言わんばかりに、オーキンスの肩の上で伸びをする。
「そういえば、オーキンスさんたちはこの後どうするんですか?」
「どうするって言われてもなぁ」
オーキンスとリリゼールが顔を見合わせる。
今回は本当にキソラの様子を見に来ただけなので、この後どうするかなど、今のところは決まってない。
「特に予定もなければ、もう少し滞在してもらうことは可能ですか?」
「ん? 別にいいが、何でだ?」
キソラの申し出に、オーキンスは首を傾げる。
「近いうちに国を挙げての武闘大会があるんです」
「それに出ろってか?」
「違います」
否定しながらも、手で耳を寄越せと言われ、二人が耳を向ければ――
「“空撃”と“海撃”が大会出るつもりで、こちらに向かっているらしいんです」
「はぁっ!?」
「嘘でしょ!?」
おかげで注目を集めたが、興味が無くなったのか、すぐさま散っていく。そのことに安堵しつつ、キソラは再度小声で話す。
「下手をすれば、他の空間魔導師たちも集まってきそうな気がして……。特にキャラの強い
「で、何が言いたい」
「“空撃”と“海撃”の両名を見張ってもらえませんか? おそらく私は出来ないでしょうし」
「何で?」
リリゼールの問いに、キソラが嫌そうな顔をする。
「……【武闘大会・学生の部】に出そうな気がするので」
「
「うちの学院、出場人数が足らないと成績が良かったり、それなりの実力者から選手の選抜するんです。私の場合、自分で言うのも何ですが、空間魔法を差し引いても、筆記も実技もそれなりに良い方なんです」
つまり、キソラの場合は選ばれる確率が高いわけで。
「だから、ボクたちに頼みたい?」
「はい」
リリゼールは確認しつつ、オーキンスにどうするかを視線で問う。
特に用事もないし、急ぐ旅でもない。おまけに、滅多にないキソラからの頼みである。
「分かった。引き受ける」
「滅多にない頼みだからね」
「ありがとうございます!」
二人に引き受けてもらい、心の底から嬉しそうなキソラに、思わずオーキンスたちも笑みを浮かべる。
だが、その直後に「でも、その前に試験頑張らないとね」というリリゼールからの爆弾投下に、キソラが嬉しさで浮かべていた笑みは一気に凍りつくのだった。
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