第一章、始まり
第一話:迷宮への侵入者
とある迷宮前。
「キソラちゃーん」
声を掛けられたキソラは振り返る。
「あ、みなさん。ちゃんと無事だったんですね」
「酷いなぁ」
休日の今日、キソラは冒険者たちに迷宮を開放していた。
そんな言い合いしながらも、冒険者たちから順に頭を撫でられていくキソラ。
今日一緒にいる冒険者たちは、キソラの幼少時からの知り合いであるためか、彼女を子供扱いしたり、娘のように接したり、妹のように接する者もいる。
さて、冒険者たちの数を数え、ギルドから要請された人数がこの場にいると確認し、迷宮に結界と幻惑の魔法を使う。
結界は外には出られても、中には入れないという一方通行仕様のため、これで閉じ込められた人がいても外には出られるし、モンスターに関しては、外に出ようとすれば、結界が邪魔をして外には出られない。
つまり、結界の作用が働くのは、冒険者たちのみなのである。
「それじゃあ、帰るか」
一人の冒険者に言われ、ぞろぞろと帰り始める他の冒険者たち。
帰ると言っても、今から行く場所は冒険者ギルドであり、報告だ。
最後に迷宮に掛けた魔法を確認し、キソラもその場を後にした。
☆★☆
息を切らして、走り続ける。
自身が走ってきた場所には、自身の血が流れ、漆黒の羽が無惨にも傷ついていた。
――何故、こうなった?
問いかけても、答えは返ってこない。
「見つけたぞ!」
「……っつ!」
声がし、背後を見る。どうやら追っ手らしい。
さて、どうするべきか。
まだ死ぬつもりはない。
なら、少しでも長く、生き延びるために魔法を使う。
「次元転移魔法だと!?」
驚く追っ手たちの前から、傷ついた身体を何とか起こし、その場から消えた。
「ここは……どこだっ……?」
出たのは、真っ暗な洞窟のような場所。
とっさに次元転移魔法を使ったので、どの位置のどんな世界に飛んだのかは分からない。
「……」
とりあえず、今は疲れたので、羽を消し、眠りについた。
☆★☆
『キソラ』
「ううん……」
何かがキソラに話し掛けるが、眠っていてキソラは気づかない。
『キソラ』
再度、声は呼びかける。
それでもキソラは起きない。
『……』
タイミングが悪かったのか? とも考える声の主だが、状況が状況のため、頑張ってキソラを起こそうとする。
『キーソーラー!』
起きる気配がない。
こうなったら、と声の主は仲間たちに協力してもらうことにした。
『キーソーラー!』
大合唱である。
さすがのそれにはキソラも飛び起きた。
「な、何? 何?」
前後左右上下を確認する。
『キソラ』
もう一度呼びかける声の主。
「その声は……どうしたの?」
重要な問題や危険がない限り、
『キソラ、誰かが迷宮内に迷い込んだ。気になるから調べて』
「誰かいるの?」
キソラの支配下にある迷宮には、キソラ自身が開けない限り、誰も入れないはずだ。
しかも、他の迷宮にも結界と幻惑の魔法はしてあり、そう簡単に入れないはずだ。
『いきなり現れた。かなりボロボロ』
「なっ……!?」
それを聞いて、キソラは慌てて身支度をした。
(いきなり現れたのは転移系の魔法、かなりボロボロってことは、おそらく重傷ってこと!)
声の主――迷宮の守護者からどの迷宮か特定できたため、その迷宮に転移魔法を使いながら向かう。
侵入者がどんな奴かは知らないが、怪我人を放置するほど、キソラは冷たくない。
だが、キソラは知らなかった。
今から起きる出来事に、自身の過去や前世が関わるということを――
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