十等星「過去」
私は小さい時よりそのような人間でした。
友人の輪は非常に細く、休み時間では絵本をよく読んでいました。
絵本は自分の知りたいことの答えをくれました。
ある時、紙飛行機を作ることがありました。
私はどちらかと言えば頭の良い方でしたから、期待をされていたのでしょう。
先生が私を指差して、紙飛行機の作り方の一部を説明するように言いました。
私にはそれが聞こえておらず、黙々と紙飛行機の最後の作り方を思案していたようです。
やがて、私が気が付いたときには、周りのみんなの笑う声が、耳をくすぐりました。
先生はやさしく、私ではない他の女の子にその問いを投げました。
小さな笑いの中、当てられたその女の子はいとも簡単という風に答えました。
……私は、それの問いについて答えることができなかったのです。
そこで初めて、私という人間は人間に対しての好奇心を見つけました。
私と同じ時間を共有しているのに、彼女と私では、その思考の進行に著しい差があったのです。
私は、それについて深い関心を得ました。
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私は彼女に近づいて、やがて友達になりました。
そして、あまり長くはない日をかけて、あの日の事を聞きました。
彼女は戸惑っているようでしたが、やがて一つの解を出しました。
しかし、その解は、私の求めていたようなものではありませんでした。
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彼女は言いました。
「私はあれを受ける前に、ちょっとだけ、紙飛行機の作り方を調べていたんだよ」
と。
その言葉を聞いた私は、どちらかと言えば失望に近い感情が生まれました。
そして、初めての関心が陳腐な答えによって解決された時、私の中に新たな疑問が生まれました。
わたしは問いました。
「卑怯だとは思わなかったのか」
と。
二回ほどそれを繰り返した思い出があります。それを聞かれた彼女はその戸惑いを取り戻して、やがて泣き出してしまいました。
今思えば、これは価値観の押し付けという、人として最低な行為をしていたのです。
やがて、私は紙飛行機の作り方を教えた先生と同じ人物にこっぴどく叱られました。
私は決して泣きはしませんでしたが、今よりも考えが浅い私は、それに対して著しい負の感情を抱いた思い出があります。
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私の中に浮かんだ新たな問いは、それはそれ一つで考えた時、評価すべき問いでした。
私は、彼女と私との間に生まれる、価値観の差異について疑問に思ったのです。
やがて不平を抱えるうちに絵本を読むことで、その問いは解決します。
恐らく、人生と人生とが捻じ曲がることによって、差異は生まれるのでしょう。
しかし、その根源たるねじ曲がりが、いったいどうして生まれるのか。それを理解することは今の今までできていません。
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私という人間はどちらかと言えば異端と言わざるを得なかったのでしょう。
小学校に進学すると、驚くように人との会話は無くなり、その時間はすべて本に取られることになりました。
私はその時、考えを深める時期でした。敷かれたレールの上をよく観察しつつ歩いて、そこにある一つの化石に気付くことが私の日課でした。
私は大多数の人間に気味悪がられていました。
もうすこし友人を作るべきでした。
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やがて小学校で一年が経ちました。
私はその時、一種の境地にたどり着いたと誤認していました。
私はできるだけ人に善行をし、自然や、目に見えぬ人間に対しての善意を多く持った、所謂偽善者でした。
しかし、周りの人間は私を依然として、いや、前の年よりもより気味悪がるようになりました。
私にはあまりそれが理解できませんでしたが、善行をすることが自身にとって良い結果になると信じて疑いませんでした。
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ある日の事です。
私は登校中に、ある場面を見ました。
私よりも一回り小さい少年が……おそらく、あの悪を想起させるのに十分な背をした少年が、朝早くよりボールで遊んでいました。
わたしは横目でそれを見ていましたが、やがて、その少年が大きくボールを飛ばしてしまいました。
その時の私は善良な人間でしたから、投げ飛ばされたボールを受け取り、返そうと思いました。
少年はボールが飛ばされた方向に私がいることを見ると、安心して、手を振っていました。
しかし、私はまだ小さかったのです。
うまくボールがキャッチできずに、余計に速力を付けて後ろへ転がっていきました。
私はそれを追いました。
やがて、そのボールをキャッチした時、近づいてくる、大きな音に初めて気が付きました。
ボールを追った私は、大きく車道に出ていました。
そして、そこに迫る大きな大きなトラックを見た時、そして、自分の失態を顧みる暇もなく。
私は死にました。
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そこで終わっていれば、ただ一人の呆けた人間で終わりました。
……しかし、運命は私にとって最も都合の悪い存在でした。
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