七等星「弔い」

「起きろ」


「……ん」


 娘は目をこすりながら立ち上がりました。


「南の砦にいた、ゴブリンデーモンとバットフライが死んだ。それに伴い、南の砦は陥落。内部にいたものは離散したか、狩られたらしい」


「……」


「ゴブリンデーモンの方は、お前も以前良くしてもらってた奴だろう。弔いに行くぞ」


「わかった」


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「ああ、魔王様! 息子を弔いに来てくださってありがとうございます……」


 渋い顔をした異形の怪物が、魔王に頭を下げた。


「ええ。彼は魔王軍の者として、非常に良い働きをしてくださった。本当に残念です」


「うう……」


 怪物は泣いた。


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 ここは、魔王城の天体観測室です。


「ねえ、魔王」


「どうした、娘よ」


「どうだったの? ゴブリンデーモンのお母さんは」


「涙を流していたよ」


「純粋な涙を?」


「……娘よ。あまり存在というものは打算的に考えないほうがよいぞ」


「わかった」


 娘は望遠鏡を見ながら答えました。


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「……なあ、娘よ」


「どうしたの、魔王」


「お前はあの時、涙を流さなかったよな」


「……」


「ひどいじゃないか。ゴブリンデーモンの奴は、お前にどれだけの時間を注いだ? それを死をもって安らかな祝福が得られないのは、何分お前にとって罪悪だと思うのだが?」


「……いじわる」


「魔王だからな」


「いじわる。涙が明確で唯一の祝福ではないとわかっているのに、そんなことを聞く」


「でも、罪悪だろう」


「……うん」


「諦めだろう」


「……わからない。そうなの?」


「そのはずさ」


「諦めていない者が泣くの?」


「そうだ」


「でも、わたしは諦めてなかった。わたしはみんなが幸せに暮らせると思ってた」


「でも、諦めがあったんだろう」


「無かった」


「気づいていなかっただけさ」


「……」


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「お前はそんな境遇なのに、よくぞ夢を得られたものだな」


「うん」


「死を通じて、か」


「うん」


「羨ましい限りだ」

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