五等星「太陽」
「やっぱり」
ここは、魔王城の天体観測室。今は昼です。
「昼は星が見えないなあ」
「そりゃあそうだろう」
魔王が言います。
「あ、娘よ、太陽を見てはいけないぞ、目が焼ける」
「私は魔物じゃないんだけど」
「魔物みたいなもんだろ……じゃなくて、人間でもだ。目にダメージを負う。太陽の光は強いからな」
「そんなに」
「先週、太陽を見て、ドラキュラが死んだ」
「魔物じゃん」
娘は笑いました。
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「ねえ」
「どうした」
「太陽って、なんであんなにまぶしいの?」
「さあ」
魔王には、その問いがわかりませんでした。
しばらく、沈黙が続きました。
次に口を開いたのは、娘でした。
「恥ずかしいのかも」
「恥ずかしい? なにが?」
魔王は聞きました。
「太陽が。太陽は、恥ずかしいから、まぶしいのかもしれない」
「ほーう。太陽が。恥ずかしいと」
「うん。……ほら、太陽って、いくつもの神様の元となってるじゃん?」
「カリバー神話でいう、トリシューナとかか」
「太陽は長い間人に思われているんだよ。人に思われて、思われ続けてきて。長く長く畏怖の対象にされてきた」
「だから恥ずかしいと」
「しかも……太陽は長い間人を見てきた。だから見て返されたのかもしれないけど、だからこそ」
「おてんとうさまがみているぞってやつか」
「そう。だから、いくつもの人に思われて……いや、そっか」
「私たちもあいつは思っているぞ。ドラキュラ公爵は私の友人だったんだ」
「そう、人だけじゃなくて、魔物や……全ての自然。地球に顔を出す、全ての自然に思われ続けてきたんだ」
「ふむ」
「だからこそ、これ以上みられないように。せめて、その実像だけは。見ずらい様にしたんじゃないかな」
「なるほどな。恥ずかしい恥ずかしくないは置いておくとして、いい論じゃないか」
「そう? ありがとう」
娘はにっこりと笑みを浮かべました。
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「ねえ」
「どうした」
「魔王は恥ずかしくないの」
「ほほう」
「いくつものものに恨まれて、畏怖の対象にされて、そして尊敬されて。太陽と魔王って、似てる。だから」
「私が、たくさんのものに思われている。ねえ」
魔王は本を置いて、考えました。
5秒程たって、魔王は言い出しました。
「恥ずかしくはない」
「どうして」
「私が魔王だからさ」
「……?」
「それに、太陽は見ていたから見ることを返されたのだろう? だったら、私も返してやろう!」
魔王は、大きく叫びました。
「人間よ! 私は恨もうぞ! お前らが恨んでいるなら、私も恨もう! そうして恨みに恨み、そしてそれをぶつけやろう!」
魔王城の、床や壁が揺れました。
今日の夕食はカレーライスでした。
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「ねえ魔王」
「どうした」
「見てるなら、悪い事は出来ないね」
「そうだな」
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