魔王と娘と天文学

リスノー

一等星「星座」

 ここは魔王城の天体観測室。綺麗な人間の娘と、怪物然とした風貌の悪い悪い魔王がいました。


「ねえ、魔王」


「どうした、娘よ」


「星座を教えて」


「いいだろう。まず、お前はどれくらいの星座を知っている?」


「カリバー座と、トリシューナ座くらいしか」


「そうか。じゃあ、まずあれを見てみろ。あの紫に光るやつ」


「下に月が見えるやつ?」


「そう、それだ。あれはペルコニウス座と言ってな。カリバー神話において、神々、ひいては人類の敵として書かれているペルコニウス神になぞらえた星座なんだ」


「へえ……魔王みたいなもの?」


「そうだな。ある意味、私もペルコニウスみたいなものかもしれない」


 魔王はコーヒーを淹れました。


「じゃあ、魔王はペルコニウスをどう思ってるの?」


「私かい? 私は……そうだな……」


 魔王は腕を組んで考えました。


「アレは……まあ、最低な奴だな。うん」


 魔王はコーヒーを飲みながら答えました。


「魔王とペルコニウスって似てるんだよね?」


 娘は望遠鏡から目を離して聞きました。


「そうだな」


「じゃあ、魔王は自分を最低な奴って思ってるの?」


「そうは思ってないな」


「なんで」


「いや、思ってるかもしれない」


「どっち」


「自分を最低最悪な奴って思わなければ、魔王なんてやっていけないからさ。でも、自分の行いが正しくないと思っても、魔王はやれないんだ」


「矛盾してない?」


「矛盾してるさ。なにせ私は、だから」


 魔王はコーヒーを飲み切って答えました。


「じゃあ、魔王って、本当はいないの?」


「いや、いるだろうな。ただでさえ今、人が描く空の上でさえ、魔王はいるんだから。」


「魔王はファンタジーなのに?」


「いや、魔王はファンタジーなんかじゃないさ。魔王っていうのは、たった一つの矛盾でだけで形容されるものなんかじゃなくて……それ以外にも、とかとか、そういう、もっと複雑にできている物さ」


「ファンタジーなのに」


「人間の作ったものだからな」


「じゃあ、魔王は人間なの?」


「いや? 魔王は魔王さ」


「ふーん」


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「ねえ」


 娘はペルコニウス座を見て言いました。


「なんで、人間は、そんな強く憎んで、恨んで、恐怖の対象にした物を星座になんかしたの?」


 娘は望遠鏡に顔を押し付けています。


「畏怖のため。ってのが、一番だろうな」


「へえ、でも、わからないや」


「なにが」


「人間にとって畏れは……恐怖は。いらない物じゃないの? だから人間は死ぬんでしょう?」


「そんなわけはないさ」


「戦争も?」


戦争たたかいも」


「人間って懲りないんだね」


「懲りてるさ。大分ね」


「ふーん」

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