かつてのいじめっ子に殺されて気付いたら改造人間。アラサーロリコン男はヒーローになって幼女を守る

国里いなり

第1話

 東京湾に作られた人工島。その上に建設された歓楽都市カブキシティは、犯罪都市とも蔑称されるほどに治安の悪い都市である。


「あー……いい。へひっ、はあ」


 夜の街を注射器片手にぶらつく薬物中毒者など、それほど珍しくもない。


「っひっひ……っく、かあ……おふ」


「邪魔だ薬中」


「あがっ!」


 それを邪魔だと即座に銃で撃ち殺すチンピラは多少、珍しいが、朝の新聞に事件として載るほどのことでもなかった。


「――おいお前! 止まれ!」


 やってきたパトカーが殺人現場の脇に止まる。


「うん? ああ……これはお巡りさん。どうかしました?」


「見たぞ。殺人の現行犯だ。銃を捨ててこっちへ来い」


 車から降りた警官が拳銃を構えて、殺人犯であるチンピラ男を呼んだ。


「ええ、ええ、わかってますよ。……ちっ、ついてねぇな」


 しかめっ面の男は警官へと歩み寄り、


「今日はちょっと、これしか……」


「うん? ……ふん。まあいい」


 警官は男から十数枚の札束を受け取り、懐に入れる。

 それから、転がってる死体へと近づき、


「……あーこれは自殺だなぁ。自殺だ。おい、お前どう思う?」


 と、パトカーの中に声をかけると、相棒とおもしき警官が窓から顔を出す。


「……馬鹿なジャンキーが間違って自分の頭を撃ったんだろ。自殺だ自殺」


「だとよ。行っていいぞ」


「へっへ、どうも」


 チンピラ男はへらへらと笑いながら去って行く。

 腐敗警官は普通だ。カブキシティにはゴロゴロいて、これは珍しくない。


「これ……死体どうするよ?」


「ほっとけよ。めんどくせえ。犬かカラスが食うだろ。それより金は? ……なんだこんだけかよ。しけてやがんな。おい、カジノ行こうぜ。ちょっと増やして飲みに行こう」


「仕事は?」


「なんだ、もう酔ってんのかよ?」


 パトカーに乗っている警官がゲラゲラと笑った。


「ははっ、いや昨日、深酒してよー頭いてーんだ。おう、行こう行こう。女も買おうぜー。胸のでかいやつ」


「かははっ、デブ女でも抱いてろよ」


「げっは、ふざけんな。デブはねーよ」


 下品な声で笑い合い、警官は転がる死体を放置してその場からパトカーで走り去る。

 掃き溜めだ。日本に住む誰もが、このカブキシティをそう罵った。

 歓楽都市という性質上、カジノが多数存在し、都市の経済は世界でも指折りに良い。 反面、賭け事で身を崩して多大な借金を負い、自殺、もしくは犯罪行為に走る者や、都市の莫大な経済力に集る反社会組織も存在し、良いことばかりでもなかった。

 殺人、窃盗、麻薬、汚職、誘拐などの凶悪な犯罪がこの都市では連日行われている。しかし、いるのがなにも犯罪者ばかりというわけではない。善良な人々も住んでいる都市でもあった。

 この都市で夜道を歩けば、十中八九なにかしらの犯罪に遭う。むしろ遭わなければ幸運。カブキシティに住む人間ならば、誰もがそれを知っていた。

 善良な人達は犯罪者の鴨にされる。それがこの都市であり、カブキシティの拭うことのできない深い闇であった。

 警察は信用できない。だが、ヒーローはいた。ある特定の要素を持つ人しか助けない、カブキシティのちょっと変わったヒーロー。その名は――

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