ショウちゃんの大冒険
三六拾八
ショウちゃんは勇者です
詳細は省こう。
とある日、彼は部活終わりのダルい帰宅路を自転車で流していたところ、不意に異世界に突っ込んでしまった。着いた先はナンチャラ言う王国で、国王様直々に「魔王が魔族を率いて攻めて来たの! このままじゃ国がヤバい。お願い助けて!」と懇願されたのだ。
なんとなく知っている小説やアニメと違い、可愛らしいお姫様やツンデレの美少女魔法使い、眼鏡の女賢者的なムフフ要素は一切なかった。王妃様は四十代の美熟女かつ巨乳だったが、人妻など翔一には関係の無い存在である。王子も三人いたが、どうでもいいので無視した。
さて、その国の王国騎士団とか言うむさ苦しいおっさんどもにしごかれ、同じく王立魔法協会に所属の爺さんどもに訓練されること一年。びっくりするほど強くなった翔一は、その国ゆいいつの魔法剣士として国王直下の騎士となった。あ、乗馬も上手くなりました。ものすごくデカい白馬も貰えたよ、やったね!
嬉しくねえよ。めちゃくちゃダルいわ。やってらんねえ。
翔一には、国王様の騎士、とやらの意味すらわからない。なんだかんだで周囲の人間には理解不能な面白い魔法まで身に付けたが、一年もの間、彼は王城のある都市から一歩も出ることを許されなかった。
いちばんマシなのは塩を振って焼いた肉、という残念な食事に耐え、騎士団の訓練所でおっさんどもをボコり、王侯貴族を集めて狩りを楽しむという森で魔法をぶっ放す日々のなか、暇さえあれば脱走を企てたのだが、どうにも上手くいかない。万引き防止タグでも付いてるのか? と疑ったところ、やはりありました。
勇者様は、首輪付きだったのです。
マジでダルいわー。もうこの国、まるごと滅びてくれねえかな。
しかしそこは翔一も、平和な日本の男子高校生である。城下町の魔族に怯える一般市民たちを目にして、しゃあねえな、と思い直す。要は、パパッと出かけて魔王とやらの軍勢をぶっ潰せば良いのだ。平和を取り戻した若き勇者様なら「きゃー、ステキ! 格好いい! 抱いて!」と群がる女性を選り取りみどりだろう。たぶん。だといいなー。
さて、首輪を付けた異世界勇者だからと、飴を与えず鞭ばかりでしごいた王国は、ひとりで国を滅ぼせそうなレベルに仕上がった翔一を盛大に送り出した。
白銀に輝く鎧と真紅のマントで飾られ、やはり装飾過多な白馬に跨った翔一は、国民の声援と花吹雪を背に旅立つ。目指すは、ナントカ言う連合国のひとつ。翔一の過ごしたナンチャラ国も、その連合とやらに属している。ナントカ国は、魔王率いる魔族の領域に最も近いとかで、その前線にて多国籍勇者軍が結成されるのだ。
意味わかんねー。まあ、騎士団のおっさんどもが連れて行ってくれるから、俺はたまに馬をパカパカやるだけなんだけどね。
ちなみに、途中の町でお披露目をする以外では、馬車の中で寝ていました。勇者って楽ちん!
旅は半月ほどかかり、翔一はついにナントカ国に着いた。
話は、そのナントカ国の王城、大広間から始まる。
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