デスエンド・ワールド

矢田川怪狸

チュートリアル


 ――おはよ、私の王子様、お目覚め?

  ここがどこかわかる?

  ふふふ、そんな心配そうな顔しなくても大丈夫

  ぜ~んぶ私が教えてあげるからね

  愛してるわ、私だけの……王子様――



 いくらかの記憶の混濁とともに、俺は目を覚ました。

 夢の中で誰かに呼ばれたような気もするが、思い出せない。

 目をあければ辺りは漆黒――何かの比喩ではなく、自分の肉体の存在すら疑いたくなるほど深い闇に包まれている。

 手を伸ばして闇の中を探るが触れるものは何もない、完全なnull。

 口を開け、そっと呼吸を吐く。大丈夫だ、声の出し方まで忘れたわけじゃない。

「おい」

 闇に向かって囁くと、どこからかブウンとかすかな音がした。

 続いて合成された声特有の、アクセントのちょっと狂った女性音声が。

『音声認識完了。各部神経接続良好。メメント・モリを起動します』

「待ってくれ、メメント・モリってなんだよ!」

 闇の中から、ごく普通のくすくす笑いが聞こえた。合成じゃない、アクセントの不備のない、かわいらしい声が。

「心配ないよ、メメント・モリは楽しくて安全なゲームだよ?」

 次の瞬間、視界の中に弾ける閃光。漆黒一色だった世界は真っ白に染まり、俺はそのまぶしさに思わず目を閉じた。


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