わなびー!? アイドロイドガール!!ミ☆☆☆

佐久間コウ

序章

※初めにお読みください。

第0話 プロローグ

 〝胸がばくばくと高鳴っている〟

 でも、きっとこれは気のせいだ。

 

 だってわたしには、脈打つべき心臓などありはしないのだから。

 

 〝心がどきどきとときめいている〟 

 でも、たぶんそれはニセモノだ。


 なぜってわたしには、出来あいの感情しか与えられていないのだから。


 ニセモノのココロが、誰かの心を動かすことなどできないと、


 ずっと、そう思っていた。


 ――あの時までは。


 繋いだ手の平を通して、ふたりの体温が伝わってくる。

 わたしのこの熱も、ふたりに伝わっているのだろうか。


 〝開演〟を知らせるブザーが鳴った。

 会場を満たしていた微かなざわめきが、ぴたりと止んだのがわかる。

 束の間、深く沈むような静寂に包まれていた。


 ――ここは、まるで海の底だ。

 リフトの穴から見上げる大きな照明は、

 さながら、夜の水面みなもに光を注ぐまんまるのお月様。


 小さな音と共に昇降機が滑るように動いた。

 あの月に向かって、まっすぐに上っていく。

 

 わたしは目を閉じると、息を吸い込んで吐いた。

 その自然な所作に、自分でもちょっとだけ驚く。

 繋いだままの手と手に、誰からともなく、淡く優しい力が込められる。

 

 できることならあと少し、このままで――、

 ふと、そんなことを思った。


 きっとこの一瞬は、これから何度も思い出す。

 忘れることができないわたしにも、〝忘れられない瞬間〟はあるのだ、と。


 加速が止まった。


 期待に胸躍らせる〝心〟に身を委ねて、わたしは閉じたままの目蓋をそっと開く。

 視界が戻った時、そこに広がっていたのは、


 ――眩いばかりの、一面の星の海だった。


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