大和委員長七変化
胆座無人
第1話
私立有勝高等学校二年B組――この教室に、毎朝一番早くに入ってくるのは誰か?
その答えは、四月からずっと決まっている。
だから、この異変に最も早く気づいたのは、二番目に早く来る人間。
陸上部の、吉田であった。
「おっはよう委員ちょ……あれ?」
始業時刻は朝八時半、吉田が来たのは朝七時半。一時間も早い、が。
吉田は、人っ子一人いない、静まり返った教室の様子を見て――あんぐりと口を開けた。
「委員長がいない。……委員長が!?」
そう。総勢四十名を数える二年B組の生徒のうち、登校時刻が最も早いのは――B組の委員長を務める、大和京子であるはずだった。
――家がね、結構遠いから……。早めに出るようにしてるの。
五月、朝練を終えて教室に入った吉田は、一人黙々と自習していた委員長に早い登校の理由を尋ねた。そのとき帰ってきたのがこの台詞だが、吉田はこれを半分しか信じていない。
家が遠いのは事実なのだろう。が、毎朝毎朝早くに登校してくる委員長は、誰もいない教室で一人黙々と掃除をしていたり、参考書を広げて自習していたりする。朝練の関係で委員長と出くわすことの多かった吉田は嫌と言うほどそれを見てきたし、ひそかに尊敬してもいた。さすが委員長、クソが付くほど真面目な人だ。俺にはとても真似できない――と。
その委員長が、今日に限っていない。
大和と話すのを毎朝の楽しみにしていた吉田は、少なからぬ落胆と違和感を覚える。
たまたま今日は寝坊したのだろうか? いや、あの真面目な委員長に限ってそれはない。
ならば……きっと風邪でもひいたのだろう、気の毒に。
そう結論付けた吉田は、朝練の疲れからだろうか。自分の席に座ると、そのまますぐに居眠りを始めてしまった。
――そんな彼には知る由もないのだが、この後委員長はちゃんと学校に来る。
ただし、始業時間よりずっと遅れた、三時間目の途中に、である。
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