それぞれのやり方 2

「だあーっ、もうダメだぁ……」


 達也が頭を抱えて机に突っ伏してしまう。

 達也の体と机の間に返ってきた小テストの答案が挟まっている。

 そこに書かれたでかでかと書かれた点数は『0点』。


「今からやれば間に合うんじゃない?」

「諦めるにはまだ早いわね」


 桜と僕で達也に言葉をかける。が、ピクリとも動かない。

 これは相当堪えているようだ。

 中間の時も0点を取っていたがその時はここまではならなかった。


「元気出しなさい。私が教えてあげるから」

「本当か!?」


 水を得た魚のように急に息を吹き返して、桜の両手を掴む達也。

 相当切羽詰まってるんだな……。


「幼なじみのよしみで今回だけは特別に。だから手を離して」

「ああ、悪い……」


 達也が慌てて手を離し、そのまま何故かホールドアップする。

 桜は落ち着き払って、手を後ろで組むと少し前のめりになって達也の顔を覗き込んだ。


「でもやるからにはきっちりやるからね? 覚悟しなさい?」

「お、お手柔らかにお願いします……」

「桜、出来ないところだけ教えればいいんじゃない?」

「こいつに出来るところなんてないわよ」

「反論できない……」


 参考までに僕らの中間考査の学年順位を確認すると……

 一位、僕、4/217位。

 二位、桜、92/217位。

 最下位、達也、182/217位。

 と圧倒的に達也が落ちぶれている。

 しかし中間の時は全教科ギリギリで赤点を回避できたらしく、補修はなかった。


「そういえば桜って頭いいのに何でテストの順位はそんなに高くないの?」


 桜は頭がいい。何でもそつなくこなすし、要領もいい。

 授業で指されて答えられなかったことは一度もなかったし、何より記憶力がずば抜けていい。

 桜なら一夜漬けで100点が取れるのではないだろうか?


「勉強してないからに決まってるじゃない」

「は?」

「え?」

「だから、テスト勉強はしてないって言ったの」


 一瞬の静寂。


 そして僕と達也で目を見合わせて、同時にため息をついた。


「宝の持ち腐れだ……」

「これだから天才は……」

「あんた達ねぇ……」


 つまり授業で聞いただけで平均点を取れるってことか?

 はっきり言って羨ましい。脳みそを分けて欲しい。


「多分今回はもうちょっと上に行くと思うわよ?」

「どうして?」

「達也を教えることで自然と復習になるじゃない」

「……なるほど」


 桜、手強い。というか基本スペックが高すぎる。

 僕と比べるとスマホとガラケー、みたいなものだろう。

 ちなみに達也はポケベルだ。


「流石に努力してる遼には負けるわよ」

「それは努力すれば勝てるってこと?」

「努力なんて面倒くさいことしなわよ。だから安心しなさい」


 いや、安心できない。

 本気を出されたらたまったもんじゃない。

 僕だけじゃなく上位勢が大騒ぎするだろう。


「俺の勉強法は聞いてくれないのね?」

「だって、ねえ?」

「うん」


 どうせ、だろうし……。聞く意味が無い。


「わかるのか?」

「わからないはずがないでしょ」

「がさつで成績が悪いと言えばこれしかないだろ」


 桜と顔を見合わせて、息をそろえて達也に向かって言った。


「一夜漬けだろ?」「一夜漬けでしょ?」


 達也はまた机に突っ伏してしまった。


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