それぞれのやり方 1

 一学期も終わりに近づき、夏休みも見えてきたが、一緒に少し面倒くさいものもやってくる。


『期末試験』だ。


 結果によっては夏休みが削れてしまうとても重要な試験だ。

 遊びつくすため、バイトに勤しむため、ゆっくり休むため……。

 人によって理由は様々だが皆思うことは同じだと思う。


 僕も優姫ゆきさんも成績は悪くないほうだ。

 自慢じゃないが僕は中間試験で学年上位10人に入った。だからと言って油断しているわけではない。むしろ夏休みがかかっているので念入りに復習している。


 問題は優姫さんの方だ。


「優姫さん、暑いです」

「む~」


 優姫さんは僕にくっついていた体を離し、僕の隣に落ち着く。


はるかくんは恋人とイチャイチャしたくないんですかっ?」

「試験一週間前にイチャついている場合ですか?」


 教科書から目を離して隣を見てみる。

 ものすごく不機嫌そうな顔をしている……。そんな顔をされても重要なのは試験だ。


「優姫さんは勉強しないんですか?」

「私は一夜漬けで十分」


 一夜漬けって……それ覚えられないですよね? テスト終わると忘れちゃいますよね?

 僕も一度やったことがあるがダメだった。途中で寝落ちしてしまって赤点ギリギリになってしまった。


「もしかして毎回?」

「うん、だって将来使わないじゃない? だったら楽なほうがいいでしょ?」

「楽、なんですかね……」


 少なくとも僕は毎日勉強するよりも遅くまで起きているほうが難しい。

 吸血鬼だから夜更かしが得意、みたいな種族特性のようなものがあるのだろうか?


「ね? だから――」

「だからと言って僕が勉強をしない理由にはなりません」

「ちぇっ」


 すると優姫さんは僕の後ろに回り、僕の背中に背中を合わせてもたれかかってきた。

 これで満足してくれるなら放っておこう。

 そのほうが心臓にもいい。


 教科書に向き直ってペンを持ち、集中し直す。

 一文字ずつ目で追いながら重要な箇所に色ペンを入れていく。

 これだけでも十分身になる。一文字ずつ、のところがミソだ。流し読みでは全く頭に入ってこない。

 この方法だと1ページ読むのに2分はかかるので時間つぶしにもちょうどいい。


「遼くん」

「なんですか?」

「……やっぱりベタベタされるのは嫌?」

「嫌じゃないですよ。でも時と場合を考えてください」

「はい」


 なんか今日の優姫さんは猫っぽいな。甘えたいときだけ甘えて、普段はクールにしていて。


「優姫さん」

「なに?」

「終わったら構ってあげますから、待っててくださいね」

「なっ!」


 これだけ近くに寄ってくるってことは寂しかったのか甘えたかったのか、どちらにせよ構って欲しいのだろう。

 目一杯甘やかすために早く片付けてしまおう。


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