誰にでも秘密はある 5

「まったく、スキンシップも程々にしてよねっ」

「はいはい、ごめんよ」


 わざとなのかそれとも癖になっているのかやめろと言われているのに隼人さんは藤崎先輩の頭を撫でている。

 端から見ている分には微笑ましくていいのだが、藤崎先輩は恥ずかしいようで顔を真っ赤にして隼人さんの手を振り払っていた。


「……やっぱりあの2人、カップルだよね」

「……はい、外だから振り払っているように見えます」

「……ってことはそういうことだよね?」

「……多分」

「そこ! 何こそこそしてるの?」

「何でもないわよ? そんなに慌てて何かやましいことでもあるの?」

「ないわよっ!」


 藤崎先輩、主導権イニシアティブがないと全然ダメだな。

 ただの照れやすい女の子だ。


 今は昼食を食べ終えてデートの続きだ。

 藤崎兄妹もデート(藤崎先輩は買い物だと言い張っている)中だったようで4人一緒にだ。

 場所はモール2階、洋服の店が並んでいる通りだ。

 ちなみに4人一緒でいることに意外にも藤崎先輩は反対しなかった。


「私、そこの店見てくるから」

「そこ……はい、いってらっしゃい」

「茜も行きましょ」

「私はいいわよ……」

「ちょっと女子だけで話したいこともあるし、ね?」

「……仕方ないなぁ」


 藤崎先輩と優姫さんが店へ向かっていった。その店の表には女性用下着をまとったマネキンが……。

 男子禁制ってイメージだよな……。

 隼人さんも苦笑いでその店を眺めていた。


「さすがに入れませんよね……」

「そうだね……」

「……」

「……」

「…………」

「女子が行っちゃったから男子だけで話そうか」

「そうですね」


 ランジェリーショップが見えない位置のベンチに並んで腰掛けて、2人で同時にため息をつく。

 完全に同調シンクロしていたのが可笑しくて互いに顔を見合わせて笑った。


「ああいうのはいつ見ても慣れないよね」

「そうですね、あのカラフルな感じがすでに目に毒です」

「確かに」


 お互いに頷き合って意見が一致していることを確認する。

 世の中にはを目の保養だと言う人もいるみたいだ。


「そういえば、島村くんと言ったかい?」

「はい、島村遼です。貴方のことは何とお呼びすれば?」

「隼人でいいよ。藤崎だと茜と混ざっちゃうからね」

「では隼人さん、と。早速質問いいですか?」

「いいよ」

「質問というか確認ですけど。藤崎先輩と隼人さんはただの義理の兄妹ですか?」

「……島村くん、君は観察眼が優れているね。そして質問の仕方も上手い」

「ありがとうございます……」


 隼人さんの顔から一瞬笑顔が消えて僕から目を離し、呟くように僕を褒めた。

 そして僕に目を合わせる。人懐っこい笑顔は元に戻っていた。


「君の思った通り僕と茜は義理の兄妹という関係だけではないよ」

「じゃあどういう……?」

「そうだね……」


 僕は固唾を呑んで隼人さんの答えを待つ。

 隼人さんは一瞬考え込むように顎に手を当てて首をかしげたが、すぐに笑顔を見せて口を開いた。


「やっぱり彼氏彼女なのかな。うん、それが一番しっくりくる」

「付き合ってるってことですか?」

「交際の申し込みはしてないんだけどね。好き合っているとは思うよ」

「やっぱりそうですか。隼人さんと藤崎先輩のスキンシップは義理だとしても年頃の兄妹には見えませんでしたから」

「君は本当に人をよく見ているね」


 隼人さんは声を上げて笑いながら『バレてたのか』と呟いた。


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