興味と欲望は違います 1

 引っ越し準備期間に起こったことや起こらなかったことはどれも優姫さん絡みで少し気を抜くだけで主導権争い――またの名を羞恥対決――が起こるので家でも学校でも気が抜けなかった。

 一応親父にも彼女の家に住むことになったと電話で伝えたが冷やかされただけで特に問題はなかった。




 予定より早く荷物がまとまったので雄介さんが転勤になるまであと一週間のタイミングで香川家に移ることにした。

 部屋は優姫さんの部屋の隣らしい。自分でも嬉しいのか怪しいのかわからない。何か悪い予感がするのは確かだが。

 荷物もキャリーバッグ一個分なので長期旅行みたいなものだ。

 尤も期間は最長で1年と言っていたからそんなに長くはないと思う。十分長い期間ではあるけれど。


 ゴロゴロと音を立てるキャリーバッグを後ろに引きながら香川家を目指す。

 家のものは使っていいと言われていたのでバッグの中身はほとんど衣類だけだ。

 軽い足取りで香川家のインターホンを押す。

 軽い電子音が鳴って玄関が開く。


「島村くん、上がってくれ」

「はい、お邪魔します」

「今日からここが君の家なんだから次からはただいまにしてくれよ?」

「わ、わかりました……」


 バッグを玄関に上げて自分もスリッパを履いて上がる。


「先に部屋に行こう。荷物を置いて来てくれ」

「はい」


 雄介さんはリビングに向かっていった。僕だけで行けと言うのか。

 幸い部屋の場所は知っているからいいけれど。

 階段を上って二つある部屋の奥の部屋。

 扉を開けて部屋を覗く。

 白が多い部屋だ、壁紙もカーテンも白。ベッドの布団も白と灰色のシンプルなものだ。


「おかえり、遼くん」


 後ろから声がかかる。振り向かなくてもわかる、優姫さんの声。


「足音も立てずに忍びよらないでくださいよ」

「私、忍者じゃなくて吸血鬼なんだけど」

「僕にとってはただの女の子です」

「そう、ちょっと残念」


 残念って、そのただの女の子の時点で美少女でかなりのスペックを持っているのですが……。

 部屋に入ってバッグを置いてすぐに出る。

 優姫さんが何をするでもなくこっちを覗き込んでいたので先にやってみる。


「優姫さん、不束者ですが今日からよろしくお願いします」

「あ、え、よろしくお願いします……」


 上手く決まった。予想通り優姫さんはうろたえている。

 そんな彼女の手を掴んで軽く引っ張る。


「おはようからおやすみまでどんなお世話も任せてください。あ、お風呂以外で」

「何言ってるの!バカっ!」


 ちょっと調子に乗り過ぎたみたいだ。

 優姫さんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまっている。


「二人とも、イチャイチャしてないで降りてきてくれ」


 階段の下から雄介さんが声をかけてくる。

 急に恥ずかしさがこみあげてきて僕も顔が赤くなってしまった。


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