おはようとおやすみ 3

 お昼ご飯はオムライスだった。優姫さんのお母さんが作る料理だけあってとてもおいしかった。

 食事中は会話が絶えることがなく笑顔も絶えなかった。主に僕と優姫さんの結婚のことを話題にされてしまったのでなかなか口が挟めなかったが。

 大人の二人は本当に楽しそうに僕らのことや孫のことを話すので否定することができなかった。尤も否定するつもりはなかったけれど。


 そして食後の紅茶が運ばれてきたときには起こった。


 詩織さんが紅茶を全員に配り終えて席に座った時、雄介さんの纏う空気が変わった。

 笑顔は同じなのに冷気を発しているような気がする。


「島村くん、優姫がなんで家出したかは聞いているかい?」

「いえ、優姫さんが隠したいようだったので」

「そうか。わかった」


 雄介さんが一度瞬きをして温度の下がった空気を戻した。


「僕から言うよ。優姫もそれでいいかい?」

「うん」


 優姫さんが頷く。周りの空気が重くなったように感じる。


「僕が転勤になってしまったんだ。それで引っ越しをしなくちゃいけなくなった」

「え?」

「それで優姫にも付いてきてもらいたかったんだけど優姫は猛抗議して」

「それで島村くんのところに行っちゃったの」


 言葉の続きを詩織さんが繋いだ。


「そういうことだったんですね」

「優姫が迷惑をかけてすまなかった」

「いいですよ、僕は迷惑なんて思ってないです」

「ありがとう」


 雄介さんは笑った顔を僕に見せる。

 僕も笑顔を返してみせる。


「それで相談なんだけど……」

「なんですか?」

「……優姫はこっちに残りたい、でも転勤は変えられない、詩織は僕に付いてくる」

「はい」


「だから君と優姫が一緒に暮らしてくれると助かる」


「はい?」

「だから君と優姫で同棲してほしいってことなんだけど……」


 同棲?僕と優姫さんが?高校生が?


「君が一人暮らしって言うのは優姫から聞いてて優姫と暮らすのはどうかなって……」

「ええと……」

「もちろん事が大きいから親御さんの了解も必要だけど……」

「…………」

「…………」


 全員が黙り込んでしまった。

 一回深呼吸をして聞いたことをまとめて話す。


「つまり同棲してほしいから僕の親に話を通してほしい、と」

「そうそう」

「大丈夫です、僕の親は不干渉なので」

「そうか、よかった……」


 雄介さんは少し不思議そうに首をかしげたがそれ以上追及してこなかった。


「それでどちらの家のほうがいいですか?」

「あ、ああ、よければうちに来て欲しい」

「わかりました」

「本当にいいのかい?」

「ええ、僕としてもうれしいですし」


 何故か雄介さんが引き始めている。


「そんなあっさり決めちゃっていいの?」

「気にしないでください」


 僕にだって隠したいことくらいある。

 冷たく拒絶の言葉を吐いた。


「じゃあ転勤は一か月後だから……」

「わかりました、それまでに荷物をまとめておきます」

「部屋も用意しておくから」

「はい」


 とんとん拍子に話は進んでいって僕と優姫さんの同棲の基礎は固まっていった。


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