おはようとおやすみ 2
何故か僕まで香川家に行くことになった。なってしまった。
優姫さんが連絡した時に雄介さんが連れてくるように言ったみたいだ。
「それでいつ行きますか?」
「ん~、お昼目指していけばいいんじゃない?」
「それってお昼ご飯をあっちでたべるってことですか?」
「そう、さっき連絡した」
すでに確定事項なんですね……。そして僕の意思は無視ですか。
「だから行こ」
「わかりました」
時刻は11時ちょうど。いい頃合いだろう。
春先の温かさのおかげで上着はいらないのですぐに用意は終わる。
「いってきます」
「いってきます」
なぜ優姫さんも『いってきます』なんだ……。
~~~
――30分後、香川家。
「おっと、いらっしゃい」
インターホンを押す前に雄介さんが出てきて声をかけられた。
優姫さんも驚いた顔をしている。
「お昼、食べていくんだろう?あがってあがって」
「は、はい」
「ただいま」
「おかえり、何かあったかい?」
「婚約した!」
「嘘を言わないでくださいっ」
「よかった、これで孫の顔が見られるよ」
「雄介さんまでっ」
二人とも嘘か本当かわからないことを言うから扱いに困る。
だいぶこの家の匂いにも慣れてきた。もともと嫌いではなかったけど。
二人の背中を追ってリビングへ入る。
「ゆきちゃんおかえり。島村くんいらっしゃい」
「お邪魔します」
「ゆきちゃんと婚約したって本当?」
「優姫さんっ!」
「嘘じゃないでしょ?」
「まだその気はありません」
「まだ、でしょ?」
「あ…………」
三人の視線が僕に集まる。
「優姫が結婚か……早いなぁ」
「ゆきちゃんにもやっと……」
夫婦は今にも泣きだしそうだ。演技だと思うけど。
「よろしくね?旦那さん?」
「だからやめてください。僕は彼氏です」
「婚約届もらわなきゃ」
「優姫さん?」
完全に人の話を聞いていない。もうパンクしそうだ……。
すると優姫さんが僕の前に回ってきて向かい合う。
「優姫さん?」
すると優姫さんは強く僕の肩を掴んで顔を寄せた。
「ん」
「もう……」
仕方なく、僕も抑えきれずに唇を重ねる。
ほとんど一瞬だけのものだったが十分重い意味を持っている。
「浮気はダメだよ?」
「優姫さん以外見えませんよ」
「二人ともいいわね」
「これで安心して行けるね」
しかし優姫さんは僕を離さない。
かなり強く締め付けられる。
「婚約したから私の初めて、いる?」
「これ以上はやめてくださいお願いします……」
僕の負けだ。お義父さんとお義母さんの前で出来ることじゃない。
それ以前に先輩と抱き合っているのが恥ずかしい。
「優姫もずいぶん積極的になったな」
「そうでもしないと遼くんは逃げちゃうもん」
「島村くんも遠慮しなくていいのよ?」
「大事にするって言いましたから」
僕は雄介さんと視線を交わらせる。
「島村くん、ありがとう」
雄介さんの目はそう言っている気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます