家出少女がやってきた 5
先輩が風呂に入っている間は気が気でなかった。
テレビをつけているのに風呂場から聞こえる水音が耳に入って先輩の姿を想像してしまう。
いくら画面の向こうの芸能人に集中しようとしてもできない。
本でも読もうかと思ったが雑音がない分さらに集中できないと思いやめた。
そして二十分ほどして先輩は戻ってきた。
「お風呂ありがとう」
「いいえ」
振り返ると先輩のパジャマ姿が目の前に。
上気した頬に潤った唇が艶やかな雰囲気を出している。
それを直視できず思わず元向いていた方向に戻る。
「ドライヤーってある?」
「ありますよ」
「よかった、家に忘れちゃって」
脱衣所に入り洗面台の下の引き出しを開ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
赤のドライヤーを渡してリビングに退散する。
「あ、遼くん」
「はーい?」
「ちょっと来て」
ソファに座りかけた体を持ち上げ、脱衣所に戻る。
何事かと脱衣所に入ると――
――いきなり視界が回り背中に衝撃が加わった。
「捕まえた」
目の前には先輩の顔、その奥には脱衣所の天井。倒されたのか。
「……っ」
血色のいい先輩の唇が迫ってくる。
「優姫先輩っ、今日は……」
先輩が止まり、離れる。
「ダメ?」
「ダメです」
僕は起き上がって先輩の肩を持ち少し力を入れて押し倒す。
「えっ………」
「捕まえた」
今度は僕が囁く。
先輩の顔から挑戦的な笑みが消えて羞恥の色が浮かぶ。
「やっ……」
赤い唇を塞いで触れ合う。温かい。
先輩も抵抗せずに受け入れてくれる。
息が苦しくなって息継ぎに唇を離す。
そして先輩の横に寝転がって先輩を抱きしめる。
柔らかい。そして熱い。
「優姫先輩、したかったでしょう?」
「え、うん……」
「いいですよ、今日は」
僕は仰向けに寝転がる。
「遼くん、今日はうつ伏せで」
「うつ伏せですか?」
言うとおりに腹を下にして寝る。
すると先輩が僕の上に乗って首に噛みつく。
いつもよりもすごく近い。というか完全に密着している。
だから当たっている。何がとは言わないが当たっている。
「ちょっとっ、せんぱい……」
「
そのまま
~~~
目が覚める。
周りは真っ暗。時計は一時二十分を指している。
体を少しねじって動かす。
するとお腹に重みがあってうまく動かせない。
先輩が僕の体を枕にして寝ていた。毛布も掛けずに。
「風邪ひきますよ……?」
体を抜いて一度先輩をソファに横たわらせる。
少し先輩の体を揺すってみる。
「ん~」
さすがに起きないか。仕方ない。
僕は先輩の体の下に腕を差し込み抱え上げる。
見よう見まねでもなんとかなるものだ。
幸い部屋のドアは開いていてやり直すなんていうヘマはしなかった。
ゆっくりと先輩を起こさないように歩いていく。
ベッドで先輩を下ろして布団をかける。
先輩の長い髪が広がっておとぎ話のお姫様のように見える。
「おやすみなさい」
先輩の髪を撫でながら呟いた。
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