家出少女がやってきた 4
夕食でのあれで精神力を使い果たした僕は湯船に浸かって心を落ち着けていた。
別に僕ら以外の誰かが見ていたわけではないが恥ずかしかった。羞恥心で燃え死にそうだった。
しかもとどめと言わんばかりの間接キス。
僕は食事が終わると走って風呂場に逃げた。
そして今に至る。
水面に顔を付けて息を吐く。ブクブクと泡が立って少しくすぐったい。
「わあわあああああ……」
水中での叫びが消えていく。
顔を上げて頭を横に振って水を払う。
先輩には羞恥心というものがないのだろうか。
それとも年上の余裕というやつなのだろうか。
どちらにせよ分が悪い。
あと一日以内で終わるとはいえいろいろ不味い。
主に僕の精神的な問題が。
「はぁ―――――」
自然とため息が漏れる。
今日も寝られるかわからない。今のうちに休んでおこう。
力を抜いて湯船の縁に首を預ける。
「遼くん大丈夫?」
「うわぁっ」
風呂場と脱衣所をつなぐドアに先輩の影が映る。
びっくりして一気に起き上がる。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
「ずいぶん長く入ってるけど?」
「え?」
風呂についている端末の時計を見ると入ってから三十分も経っていた。
「ああ、上がりますから優姫先輩はリビングに戻っててください」
「はーい」
ドアに映った影が足音とともに遠ざかっていく。
また僕の口からため息が漏れる。
全くあの人は僕をどれだけ驚かせれば気が済むのだろう。
派手な水音を立てて脱衣所に出る。
バスタオルを出して体を拭く。
そして僕は重大なミスに気が付いた。
着替えを持ってくるのを忘れた……。
夕食を食べた後、真っ直ぐ風呂場に来てしまったので部屋から着替えを持ってくるの忘れてしまった。
でも脱いだものを着るのはしたくない。
仕方なく僕はバスタオルを腰に巻いて脱衣所を出た。
リビングを通って足早に部屋に向かう。
多分今までで一番早く部屋のドアを開ける。
すると――
「なんでここにいるんですかっ」
「え?ちょっと部屋漁りを……」
「やめてくださいっ」
先輩の肩を掴んでドアに向かって押していく。
「あ、ちょっと」
「早く出ていってください」
ドアの外に追い出してドアを閉めてついでに鍵も回す。
これでやっと安心だ。
箪笥から部屋着一式を出してゆっくり着替えた。
着替えてから部屋を出ると先輩がソファに座って怒っていた。
「いきなり追い出すなんてひどい」
「部屋を漁るほうがひどいですから」
「だって男の子の部屋にはあるんでしょ?」
「何がですか?」
「えっちな本」
何だその片寄った知識は……。
「ありません。世間の男子がそうかは知りませんが僕は持っていません」
「本当に?」
疑わしそうな目を向けないでほしい。
「ないですから。探しても出てきませんよ」
「そっか。ならいい」
あっさり諦める先輩。意外に聞き分けがいい。
「……遼くん」
「はい」
「体、結構いいのね」
「はい?」
「体つき、いいのね」
ああ、さっき見られちゃったか。
「中学の時は陸上で鍛えてましたから」
「そう、意外」
意外って他に何が似合うと言うのだろう?
それを先輩に聞いてみると。
「吹奏楽部とか」
「吹奏楽?」
「歌、上手だったから」
「歌は別に練習とかはしてないんですけどね」
「本当に?」
「楽器も吹けませんし」
吹奏楽か。体が小さいからか?別に目立つほど小さいわけじゃないと思うんだけど。
歌が上手いのは陸上の仲間にもいた。
いきなり先輩が体に触れてくる。
「ゆ、優姫先輩?」
「やっぱりいい」
「先輩……?」
先輩が手を離して今度は耳を胸に当ててくる。
「生きてる」
「当たり前です」
「……早くなった。緊張してる?」
「これだけ近いんですから……」
先輩は目を閉じて僕の心音を聞いているようだ。
「優姫先輩は風呂入らないんですか?」
「あとちょっと……」
離れてくれないみたいだ。
この後先輩は十分ほどそのまま僕の胸に耳を当てていた。
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