第2話「始まりの予兆」Part 2
「おにぃ!言っておくけど、あたしは爺じもまだ甘いと思っているわ。私はまだ許したわけじゃないんだからねっ!」
場所はアイルとアリーの住む小さな建物。
洗礼された包丁捌きでザクッ、ザクッと音を立てながら台所で野菜を切るアリーは、まだ怒っている様子。
それもそうだ。だって俺はアリーとの約束を破ってばかりなのだ。今回も前回も、その前だって俺は約束通りに帰って来た試しがない。だから俺は帰ったらアリーに頭が上がらないのだ。
「ぺっ....ぺっぺっぺっ!あぁ、気持ち悪ぃ、爺ちゃんめ、あの髭切ってしまおうか」
そしてこれも毎度な事で、爺ちゃんこと、このタノン村の長。フォクス村長の長い白髭を罰として口の中に突っ込まれ、あれよあれよと口の中でかき混ぜられるのだ。世界で2番目にされたくない事だ。
「ちょっとおにぃ!聞いてるの?」
「あぁ、聞いてるよ。ホントすまなかった!今度は絶対守るから!ちゃんと帰ってくるよ!」
「ほんとかしら。おにぃはいつもそう言って約束を破るんだもの。あたしの信頼度は下がる一方よ」
ふんっ!とそっぽを向き、いつになく荒っぽく包丁を扱うアリーは今晩の夕食の準備をしていた。
「だから悪かったって、ごめんな。ところでアリー、今晩は何にするんだ?」
話の話題をどうにか変えようと、アイルは試みる。なにせアリーは食べ物の話になると話が止まらなくなってしまうほど料理が大好きなのだ。
「ん?今晩?今日はね〜クリームシチューにしてみたの!ミルクが濃厚ですごく美味しいのよ!それに野菜も今日採れたての新鮮野菜よ!楽しみに待っててね!」
「あー、聞いてたら腹減って来た!楽しみにしてるぞ!」
(ほ〜ら、チョロい。話題変更完了だな)
しかし我が妹ながら、アリーは食べ物の話になるとコロッと変わってしまう。悪い男に騙されたりしないか少し心配なところはある。
もちろん、アリーは俺が絶対に守る。そう約束したのだ。
頭の中にまだ焼きつくあの日の出来事は、一生消えないだろう。しかし、俺は忘れるつもりはない。
「ぃ...にぃ...アイルにぃ!」
「あ。あぁ、なんだアリー?」
「またぼーっとして。それとおにぃ、爺じが呼んでたよ!」
「爺ちゃんが?」
「うん、話があるってさ。なにかは聞いてないけど、大事な話らしいよ?夕食まだ時間かかりそうだから行っておいでよ」
「そうか、わかった。行ってくるね」
「うん、気をつけてね」
そう言って俺は少し離れたフォクス村長の住む家まで向かった。
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