魔術師と呼ばれても
やる気のあるエビ
前編
広い大陸には複数の都市が存在している。
だが、魔術図書館が存在しているのは広い大陸を持ってしてもこの都市にしか存在していない。
彼はそんな魔術図書館に毎日のように通っている。
彼の名前はパール、ちょうどルアがこの都市で最も有名な騎士となる日にちょうど隣の都市から引っ越してきたらしい。彼はこの都市に来てからは毎日のように図書館へと通っている。彼女はそんな彼が毎日この埃っぽい場所に何をしに行っているのか、とても興味があった。
ある日、偶然にも図書館近くの酒場で彼と相席となった。こんな機会は滅多にない、と彼女は思い口を開いた。
「ねえパール君、と言ったかしら。ここに来てから毎日のように図書館へ来ているけどなんでなのかしら」と、すると彼は「調べたいことがありましてね。ここでしか調べることができないのでわざわざこちらへと引っ越してきました。しかしあなたのような偉大な騎士がこんなところに来るなんて意外ですよ」
彼女はクスリと笑いながら、「騎士だってお酒ぐらい嗜むものよ?」とパールの肩を叩きながら言った。彼は少し顔を引きつらせながらも手元の酒を喉へと流し込む。
それからは彼女からなだれの様に質問を投げかけられた。何を調べているのか、前いた都市がどんなところなのか、普段何をしているのか…。
彼が想像していた人物像とかけ離れており、酒が進むにつれて口も悪くなっていっていた。
「でさー、アタシはここの代表騎士になんてなるつもりなかったんよー?」
「は、はぁ・・・」
「いやんになっちゃうよねー、それだったら前いた鉱山街の方がよっぽど楽しかったわぁ!」
彼女はああ見えてこの都市での暮らしはそこまで良いものと思ってないらしい。
あきれながらも結局朝が明けるまで彼女の愚痴を聞くハメになっていた。
この前の一晩があってか、それ以降も彼女との付き合いがたびたびあるようになった。よく例の酒場で出くわすからだ。この酒場でよく出くわす理由は2つあった。
1つ目は彼女自身がパールがいるとわかっていてこの酒場へと来ている。好意、とは違うが彼自身が彼女の話を聞くためか接しやすいと感じているのだろう。
2つ目はパール自身がいつもこの時間にこの酒場にいるからだ。普段あまり人が立ち入らない図書館へ1人日中篭もり、夜になるとこの酒場で一杯やっている。彼女はこの都市を守る代表騎士であるため、そんな彼の光景をよく見かけていた。
「パール君、今日も図書館に入っていますねルア様」
「ええ、とても勤勉だと思うわ。毎日よく通っていられるわね」
彼女は部下のイクリプスと都市内を歩いている。
普段彼女達は都市の安全確認のため、昼間から夕方にかけては都市内全体を見回りをしている。
「一度、彼が中で何をしているのか見に行ったことがあるのですが、古い書物を淡々と何時間も眺めていましたよ。私にはとてもできません」と笑いながら話した。
「でも、ちょっと気になることがあるんですよね」と不意に呟く。
「気になること?」
「ええ、彼っていつ寝ているのでしょうか?よく夜は酒場にいるじゃないですか。でも図書館にはいつも朝からいるんですよ」
「…考えたこともなかったけど確かに妙ね」と少し彼女は考える。
「よし、今から図書館へ行ってみましょう」と彼女は言い、図書館へと向かった。
図書館へ入ると、少し埃が舞う。普段パールが入ってるとは言え古い建物なのかかなり汚く感じ、空気も少し淀んでいる印象がある。
少し咳き込みながらも少し奥へと進むと、たくさんの本を山積みにして腰掛けているパールがいる。
「ルアさんにイクリプスさんじゃないですか。どうかしましたか?」と彼が尋ねる。
「いえ、今日は何を読んでいるのか気になりまして」とイクリプスが返した。
「今日はこの魔物記録書を。最近新しく更新されまして、これまでになかった新種について調べていました」
「魔物について調べて何か意味あるの?」とルアが不思議そうに尋ねた。
「ええ、ちょっとこの新しい記録は少しわけありで。僕の友人が記録に関わっていまして、どんなものかと興味があって調べています」と言った。
「へえ」と興味のなさそうな返事をルアはした。隣にいたイクリプスは「では頑張ってください」と一言だけ発して彼女と共に図書館から出た。
イクリプスはあの日の図書館での会話がどうしても気になっていた。どうしても気になる彼はその後何度か彼の監視をはじめた。
数日後、イクリプスはパールの様子を探るため夜に酒場へと向かおうとした。
向かう途中に図書館の前を通るのだが、たまたまその日図書館の扉が開きっぱなしになっていることに気付いた。
彼はパールが開けっ放しで出て行ったのかと少しため息をしながら扉を閉めようとした。だが、中からかすかに声がすることに気付き、その手を止めた。
(妙だな、こんな時間に中から話し声?パールか?)
彼は音を立てぬよう図書館の中へと入る。
「今日は5人が購入しましたぜ旦那様」
「順調だな。この調子でいけば東区にこの粉が広がるのも時間の問題だな」
(粉・・・、粉?)
もう少し話を聞こうと見つからないよう奥へと進む。
少し、もう少しと進む。だが、足元に落ちていた本に足がぶつかる。
「誰だ!」
奥から荒げた声が聞こえる。イクリプスは剣を抜き、構える。
図書館内は暗く、視界も悪い。だが、四方から微かに吐息が聞こえる。
「5・・・いや6人か、多いな・・・チッ」
舌打ちしながらもジリジリと後ろへ下がる。
入り口付近にも人がいる気配がある。
「お前が何者かは知らないが、知ってしまった以上は生かして帰すわけにはいかない、悪いが死んでもらう」と奥からボスらしき男の声がする。
(やばい・・・、やばいぞ!)
かつてない緊張感がイクリプスを襲っている。この都市でこれまで目立った暴動はまったくなく、彼自身戦闘経験が乏しい。魔物討伐には何度か参加していたが、だいたいはルアが獲物を狩っていた。
「さあ、どういたぶってくれようか」
まわりにいる男達の薄ら笑いが四方から聞こえる。破れかぶれに攻撃しても意味がないことを理解しつつも、どうにかしなければ、というプレッシャーが彼を追い詰めていく。
「うわぁっ!!!」
背後から男の叫び声が聞こえ、何かが倒れる音がした。
すると何かが走る音がし、イクリプスの真横を通り過ぎていく。
「な、なんだ!」
「アスが倒された!誰かもう1人いるぞ!」
あたりが騒ぎ出す。イクリプスは状況が飲めず、唖然としている。
すると背後から、「邪魔だ、早くここから出て行け」と耳打ちされる。
イクリプスは入り口付近にいた男の気配がないことに気付き、走って図書館から飛び出した。
図書館からボスらしき男の断末魔が響く。一体中で何が起こっているのか彼には理解できなかった。
翌日、図書館は一時の封鎖となった。図書館内部から7人の死体が発見された。
パールが残念そうに家へ帰っていく姿をイクリプスは目撃した。
「粉、か。初めて聞く話ではあるがこの都市では私達が知らないところでよくないことが起きているのかもしれないな」とルアが言う。
「調査の結果、東区で妙な薬が出回っているという話がありました。あと西区、南区でも似たような話があるみたいです」とイクリプスが報告する。
「なるほど、ボスらしきものが死んだがまだ薬が出回っているのを見るに他にも似たような輩がいるのかもしれないな。イクリプス、他の騎士達にも伝達しろ。怪しいものが入ればすぐに報告しろ」
「ハッ!」
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