【ブラックスワン】
僕の町には、噂があった。
『ブラックスワン』。
僕は高校生。マラカボ=ナスティーナ高等学校へと通っている。入学当初は気さくな方で、クラス全員と友達みたいな感じであった。しかし、進級してクラスが変わると、僕はなぜかいじめられるようになった。学級委員長という学級をまとめる役員をしていたので、それがもしや原因かもしれないとは思っていたが、僕よりきつくクラスに当たる女子の学級委員の方は何もされていなかった。いじめられるどころか、悪口さえ言われてなかった。ということは、最初から僕はいじめの対象であったのだ。
僕は一ヶ月もせずに不登校になった。学校の勉強は好きなのに、学校へ行けないことに苛立ちと悲しみを覚えていた。先生に相談しても、お前がもっと強くならないといけないんだというばかり。生徒のことなど考えていないのだ。こんな運の悪い学級に入ったのはなぜだろうと思った。日頃の行いが悪かったのか?いや、親には一度も怒られたこともないし、テストでは80点以下など一度も取ったことなかった。でも、天才ではないから、毎日のように勉強をして努力をしてきた。そんな僕が、なぜこんな目に合わないといけないのだろうか。そう思うと、自分の弱さと、学校に行かせられるように仕事へ行って稼いでくれている親に申し訳ない気持ちが相まって涙が流れる。もう、迷惑をかけるくらいなら死んでやろうか。そう思った。
僕は死に場所を探した。しかしこの村には高いところと言えるところがなく、飛び降りはできない。木々はとても低く、草が生えているだけで、ロープをかけれるようなところもない。だからと言って頸動脈を切って自殺するのは、痛いし血しぶきが激しいしで迷惑はかけるわ処理はめんどくさいわでデメリットしかない。だから僕は考えた。睡眠薬の導入後、溺死が一番楽であると。カバンに大量の睡眠薬を入れて、遺書を持って、湖へと走って行った。数十分して着いた。朝の6時。この村ではまだ誰も起きていないような時間帯である。僕は湖の岸で睡眠薬を手のひらいっぱいに乗せ、そして一気に飲み干そうとした。
「さようなら、お母さん。お父さん」
そして、小声でいっせーのーでと言って薬を含もうとした途端、後ろから声がかかる。
「まあ、待ちなって少年」
僕はその声を聞いてすぐに振り向く。誰もいない。幻聴かと思い、もう一度薬を飲もうとすると、
「おい、シカトぶっこいてんじゃねぇ」
もう一度あの声が聞こえる。一回目よりも早く反応し振り返る。しかし姿はなかった。
「いや、もうちょい下向いてくれ」
僕は目を落とす。するとそこには黒い鳥が立っていた。
「おう、それが声の主」
僕はびっくりして睡眠薬を湖の中にぽちゃんと落としてしまった。あぁぁっ!っと少し叫んでしまった。
「うるせえな。朝早いんだから静かにしてくれよ」
俺はふるふると顔を横に振り、心を落ち着かせて黒い鳥に言う。
「いや、鳥が言葉喋るってありえないんですけど」
「俺からしたら猫とかに向かってにゃーとか言ってる人間もありえねえけどな」
それはちょっと共感できるかも。…いや、お前猫じゃねーし。
「まあそんなことはどうでもいいとして、どうした少年。こんな朝早くに」
黒い鳥が僕に話しかけてくる。昔の僕のように。僕は誤魔化すように、
「さ…散歩だよ。気分転換にね」
と言った。すると、それを聞いたやいなや、黒い鳥はとことこと歩き、そこに溢れている薬をくちばしで拾って僕に聞いた。
「じゃあこれ何?」
僕は慌てて薬を取り上げ、
「た、ただの風邪薬だよ…」
と言った。しかし、黒い鳥はため息をつくように鳴き声を漏らす。そして、僕に突然こう言う。
「死のうとしてただろ」
!?…それはとても唐突で、僕の心臓を貫くような言葉だった。僕は悔しかった。というのも、こんな自由に生きている鳥なんかに、僕の気持ちがわかるのかと思ったのだ。
「お前に何がわかる…?僕の苦しみなどわかるわけないだろ」
すると、黒い鳥はため息をつくようにまた鳴き声を漏らす。
「なぁ、少年。俺たち黒い鳥…
僕はふるふると首を横に振る。
「…『不吉を呼ぶ鳥、ブラックスワン』だと。何でそんな異名がつけられたんだろうな」
「…じゃあこんなに僕が不吉なのも、お前にあったからか?」
はぁ?とそんな顔をされる。僕はその態度にはぁ?としたいくらいだ。
「俺たちは幸運をもたらす黒鳥、ブラックダイヤ」
…えぇ…とそんな顔をしてみた。すると黒い鳥は少ししかめっ面で怒った。でもその顔はすぐに元通りになり、そして僕にこう言う。
「まあ明日学校行ってみろよ。いいことが起きてるから」
僕は黒い鳥が言うことを、以外とその時疑わなかった。
そしてその日、僕は学校に行った。するといじめをしていたメンバーは登校中のバスが事故を起こし、全員死んでしまったという。僕は驚いた。あの黒い鳥が言ったことは本当だったんだ。
放課後になって僕はすぐ湖に行った。しかしそこに黒い鳥はいなかった。
夜、バスの事故がニュースに取り上げられていた。
僕は、事故現場に散っていた、赤く染まった黒い羽を見て僕は泣いた。
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