小春日和
カゲトモ
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暑い。久し振りにこの暑さだ。日差しのきつさは昨日とはあまり変わらないのに、風があるのとないのとでは体感の寒さが違う。やっぱりコートは店に置いてくれば良かった。
「失敗した」
「なにが?」
もしかして今俺に話しかけた?
誰が、とアーケード内に一歩踏み入れたままの足を止めて、視線を左右に揺らすも誰も居ない。と、右脚に突然の衝撃。
「なにがしっぱいしたのー?」
「奈々子」
足にしがみついていたのは青果店の小さな娘だった。
「びっくりした」
「ねぇねぇ、すかい、なにがしっぱいしたの?」
奈々子は頭の高い位置で二つに結んだ髪を揺らして首を傾げた。
「んー、コート着て来なかったら良かったなって」
「こーと? なんで?」
「だって暑いだろ」
「暑くないよ」
でも寒くはないだろ? 奈々子だってワンピースにピンク色のパーカーだけじゃないか。
「ちょうどいいよ」
「ふ、そうか、丁度いいか」
足から離れて両手をパッと広げた奈々子は、今日は新しいワンピースを着せてもらっているんだと言った。
「かわいいでしょ?」
「あぁ、可愛いな」
「ここのりぼんがね、いちばんすきなの」
「うんうん、可愛いな」
その場にしゃがんで目線を合わせると、奈々子がクルクル回ってファッションショーだ。どうやらおばあちゃんが買ってくれたお気に入りのワンピースらしく、胸元の大きなリボンが一番のポイントらしい。冬らしい、暖かそうなものだった。
「良かったな」
「うん!」
奈々子は満足そうに笑うと、今度は俺の手を取って足早に外へ行こうと言う。商店街は全店アーケード内にある。外へ出るとまたあの日差しだ。
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