第3話 排水口
それから女子友達とコンビニでアイスを食べながら喋り、自転車を走らせて家に帰ったのは9時45分過ぎ。
「お帰り」
玄関のドアを開けると、パートから帰ってきてたお母さんが出てきた。
「お腹空いてるでしょ?ご飯買ってきてるわよ。その前にシャワー浴びちゃいなさいよ」
「うん」
私はそう答えると、いったん二階の自分の部屋に行ってカバンを置いてから、一階の浴室に向かう。
服を脱いで脱衣カゴに入れた。
汗ばんだ長い黒髪が、首筋や背中に張りついて気持ち悪い。瀬戸君のために伸ばしてあるだけで、私だって、こんな暑い夏に長い髪は嫌だ。
浴室に入りシャワーを浴びると、熱を帯びていた体が心地よくクールダウンする。
と、流れるシャワーの音に混じって、浴室のドアを叩く音がした。
「菜々子~、排水口のところの髪取っておいてよ」
「分かった」
そう答えると、私はお湯の流れ込む排水口を見下ろす。
ゴボッ……
「えっ……」
私はゆっくり屈むと、排水口に顔を近づけた。
ゴボゴボッ……
銀の蓋が被された排水口には、私の物かと思う黒く長い髪の毛が絡まっている。
私は、その髪に手を伸ばした。
髪の毛を取り去ろうと引っ張る。
「……?」
でも、引っ張っても引っ張っても、髪の毛は続いていた。
「どうなってるのよ?」
私は銀の蓋に手をかけると、真っ暗な排水口の中を覗きこむ。
「嘘……でしょ……」
シャワーのお湯が流れ込む暗闇の先に。
二つの目が見えた……。
「あ……あ……っ」
助けを呼びたいのに、言葉が出てこない。
私は、握っていた髪の毛を手放すと、体を引きずるように後ずさった。
ゴボゴボゴボゴボッ……
「……!」
けれど、真っ黒な髪の毛は、水音を立てながら増えて排水口から溢れてくる。
そして、うねうねと伸びてきた髪の毛が、私の足首に巻きついた。
「ひ……っ」
そして、巻きついた黒髪は、私の体をすごい力で排水口へと引っ張る。
「や……め……」
恐怖が喉を締め付けて、声が出ない。
得体の知れない長い髪の毛は、私にしっかりと巻きつき離さない。
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ……
私の足先が、排水口へと入っていく。
「い、嫌……!」
浴室のタイルに必死に爪を立てたけど、足から、どんどん飲み込まれていく。
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボッ……
「なん、で……」
短い呟きと共に、私の意識は、そこで途切れた。
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