排水口

月花

第1話 髮

「お風呂の排水口のとこってさ、すぐ髪の毛たまるよね?」


「確かに」


「何か気づくとさ、髪で真っ黒になってたりとか」


「そうそう。誰かいるんじゃね?ってくらいにさ」


「なに、ソレ!ホラーじゃん!」


キャハハと、隣で歩く友香ともか真奈美まなみが笑った。


7月半ばの午後現在、気温32度の中、私達は高校の帰り道を歩いている。あと少し頑張って登校すれば、もうすぐ夏休みだ。


と言っても、夏休みに入ったら入ったで、予備校の夏期講習があるんだけど。


「にしても、あっつー」


友香が、首に張りついていた髪の毛をかきあげた。


「この時期、髪が汗で、ぐちゃぐちゃだよ」


「ほんと夏なんてなくなればいいのにね」


私がそう呟いた後、真奈美が私を見て言う。


菜々子ななこ、その髪うっとうしくない?」


「え?」


「そんな背中の真ん中まで伸ばしてさ。この時期イヤになんない?」


真奈美が言うと、友香も頷いて聞いてくる。


「ほんとほんと。いっそショートにしてみるとか?」


「えっ、やだよ!」


私はそう言って、汗でしっとりとした長い黒髪をぎゅっと握った。そんな私を見て、二人はケラケラ笑う。


「そんなマジに返さなくても!じゃあ、うちら行くね。バイバイ、菜々子」


「うん、またね!」


私は、友香と真奈美に手を振ると、家に向かって再び歩き出す。友香達は、これからクラスメートの男子達とカラオケに行くらしい。私も誘われたけど、断った。何だかんだ言って、二人ともタフだと思う。


「ただいま」


家に着いて、玄関のドアを開けた。


「お帰り」


リビングの方から声がして、弟の勇太ゆうたが、こっちにやってくる。


「お母さんは?」


「まだ」


「そっか」


お母さんは、スーパーでパートをしている。


私は黒の学生靴を脱ぐと、廊下の先にあるリビングに真っ直ぐ向かった。冷蔵庫の中から麦茶を出すと、一気に飲む。熱くなっていた体が、中からクールダウンした。


「姉ちゃん」


呼ばれて視線を向けると、勇太が右手を差し出してくる。


「髪の毛、落ちてる」


よく見ると、勇太の人差し指と親指の間に、数本の長い黒髪が挟まれていた。


「こんなに良く伸ばせるよな。ただでさえ暑いのに、見てるだけで余計暑苦しい」


「……悪かったわね」


私は、勇太から長い髪の毛を受けとると、すぐにゴミ箱に捨てる。


私の長い黒髪は、家族からしたら、ただの邪魔者らしい。


それから、私は手を洗おうと、洗面所に向かった。


お気に入りのハンドソープで手を洗って、洗面所を後にしようと思った、その時。



ゴボゴボッ……



浴室の方から、変な音が聞こえてきた。


「……?」


何だろう。


私は不思議に思って、浴室のドアを開けた。


でも、特に変わったとこはない。


私は、もう一度浴室のドアを閉めると、洗面所を後にする。


それからリビングでテレビを見ながら、チョコレートとかお菓子を食べて。5時半になったから、予備校に行く支度をする。

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