第44話 猛襲

 かわるがわる向かってくる敵は、休ませてくれもしない。

 俺もタスクも、なんとか敵の爪からは逃れているが、少しでも対処を誤ったらすぐにでもあの鋭い爪に裂かれそうだ。


「ギイチ、ちょっとキツいコレ。何とかなんねえのかよ!」

「こっちだっていっぱいいっぱいなんだよ!」


 互いに応戦しながらも声を掛け合うがフォローする余裕もない。

 そんな中、後ろに控えていたはずのユーリが前に飛び出すのが見えた。


「ユーリ、前に出たら――」

「私が囮になります!」


 いつ出したのか、ユーリの手にはメイス・・・が握られていた。これまで前に出て戦うことはしなかったのだが、窮地と見て飛び出してしまったのか。


「こっちです! こっちですよー!」


 敵に向かって呑気に呼びかけているが、その顔は真剣だ。

 急に飛び出してきたユーリに向かって数体のガーゴイルが襲い掛かってくる。


「ユーリ、危ない!」

「大丈夫です! 二人は一体でも倒して下さい! こんなことしかできなくて……すいません!」


 飛来するガーゴイルをしっかりとしたステップで避けている。ユーリに前に出られて不安な気持ちもあるが、敵の数が分散されたのはかなり効果があった。


「タスクっ!」

「分かってるよ! 何とかするっきゃないだろ!」


 決死とも取れるユーリの行動を見て、俺もタスクも『何とかしなきゃいけない』という気持ちが湧き上がった。このままユーリが敵の爪にかかりでもしたら、自分がやられるより嫌だ。再び襲い掛かってくる、数を減らしたガーゴイル達に向き直る。


 むやみに剣を振ってもダメだ。敵に回避行動を許さないように十分に引きつけて、ここぞという時に踏み込むんだ。

 斜め上からまっすぐ落ちてくるガーゴイルに、その軌道にわざと合わせるようにして後ろへとステップを繰り返して誘い込む。軽く飛んでいるのに、強化の恩恵により落下の勢いで迫る敵と同じくらいのスピードが出る。徐々に距離を縮めてくるガーゴイルが俺の喉元へと突き刺そうと腕を振り上げる瞬間、強く踏み込んで前へ出ながら最短距離で剣を突き抜く。


 叫び声と共に大きく開いた口の中へと剣を滑り込ませ、一体のガーゴイルが串刺しとなった。剣を横に振ってガーゴイルを床に投げ出すと、すぐ近くまで迫ってきていた敵に向き直る。

 俺に襲いかかっていたガーゴイルを追走していたその敵は、一体がやられたことに気付いて向きを変えようとするが、勢いの乗った落下に中々ブレーキがかからないのが見て取れた。機を逃すまいと前に飛び上がり、相対する敵と交錯する。


「ああああああっ!」


 空中で俺の剣を逃れようと身をよじるガーゴイルだったが、振り下ろした剣は敵の片翼・・を捉えた。岩のような肌はやはり固かったが、押し切るようにしてそれを千切る・・・

 制御を失ったガーゴイルが石の床へと落ちていくのを、着地と同時にすぐさまそれを追い、起き上がろうとしていた敵の肩を掴み、突き出した剣で頭部を貫く。


「やった……」


 床に転がる二体のガーゴイル。追撃してくる敵はいない。タスクやユーリの方に残りの敵が襲いかかっているのが見える。


「タスクっ!」

「ははっ、俺天才!」


 タスクの方を見ると、これもうまく誘い込んだのか、ハンマーでかち上げたガーゴイルが意識を失ったように石の床に落ちたのを、再度振り上げたハンマーで頭をかち割るところだった。しかし一体を潰して気が緩んだところを狙うように、タスクの背後からガーゴイルが迫っている。


「馬鹿、後ろから来てるぞ!」

「うそっ――――ぐぅっ!」


 振り返る余裕もなく、横に飛んだタスクの背中をガーゴイルの爪が引き裂く。


「おい、平気かっ!」

「おらぁっ! 大丈夫だ――傷は浅いぞ!」

「そ、そっか……」


 攻撃を背中に受けたタスクだったが、更に追撃を食らわせようと迫ってきていたガーゴイルを振り向きざまにハンマーで叩き潰す。冗談が言えるくらいなので大丈夫だろうが、ここにきて手傷を負ってしまった。


「タスクくんっ! 大丈夫ですか!」

「こっちは気にしないでいいから、ユーリちゃんは自分のことに集中してくれよ!」

「分かりました!」


 広間の中央で、ひっきりなしに襲ってくる敵の攻撃を躱し続けているユーリ。

 タスクの傷も心配だが、早く敵を減らさなければならない。残るは、八体。


「タスクっ、まだいけるか!」

「あったりまえよ!」


 俺とタスクは息を整える間もなく、広間の中央付近のユーリに向かって駆け出す。

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