第38話 休日

「それじゃあ、行ってきます」

「は〜い、あんまり遅くなっちゃダメよ〜〜」

「分かったよ……」


 翌日、近所の公園でタスクと待ち合わせをすることにしたため、昼前に家を出た。

 俺が出かける旨を伝えると、玄関で横にいるユーリがぺこりと母さんにお辞儀をする。昨日とは違い、今日はユーリも一緒だ。タスクと落ち合う予定の公園に向かう間、どうしたものかと考えていた。


 昨日、タスクとは電話で話をしていた。

 俺とタスクとの間では、裏面うらめんの攻略を一旦中断しようということにしていた。色んなことがありすぎたし、このままずるずると攻略を続けていたら、すぐまた危険な目に遭うだろうと思ったからだ。

 そう切り出したのは意外にもタスクの方で、ケロっとして『また裏面に行こう』と言うのがいつものタスクだ。流石に死ぬ一歩手前の状況――それも、裏面で出て来る敵ではなく、人の手によってその状況におちいったのだからタスクがそう言うのも無理がない。あの場で、死の恐怖を一番感じていたのはタスクだろう。


 タスクと話す中、俺は二つ悩ましく感じていた点がある。

 一つは、『裏面攻略をいつ再開するのか、それとも辞めるのか』という点だ。一度裏面攻略をしようと決めたものの、タスクの決断は『中断』という中途半端なものだった。裏面攻略の言い出しっぺはタスクなので決めづらい思いがあるのだろうが、どちらにするかは重要な点だ。

 当のタスクは言葉を濁し、『今決めなくていいんじゃないか?』という回答が返ってきた。気持ちは分かるし、それはそれでいい。


 二つ目は、『ユーリが何故かは知らないが裏面攻略をしたがっているが、それはどうするか』という点だ。中断するにしても三人で裏面攻略を進めることにしたため、俺達二人だけで決定するのもフェアじゃない気がした。それに対しては、『明日三人で会った時に話そう』とだけ言われた。決断をしたのはタスクなので、自分から話したいためだろう。俺に、ユーリに言っておいてくれと頼むことはしなかった。


 そんなやり取りをしていたため、ユーリには昨日あったことも裏面攻略を中断することも、どちらも話していなかった。

 結果的に黙っていることになっているので、少し後ろめたく感じてユーリの方を見ると、ユーリは俺がどういう意味で見たのかが分かっていないようで、ニコっと笑顔を返してきた。後ろめたさに拍車が掛かる。


「よう、ギイチ」

「今日は早いんだな、タスク」

「タスクくん、こんにちは」


 俺とユーリが公園に到着した時、すでにタスクが待っていた。

 ユーリがニコっと笑ってお辞儀をすると、タスクも気まずそうな顔をしている。


「今日はどちらに行くんですか?」

「今日は、そうだな……」


 次いだユーリの質問に、タスクは言葉を濁す。というか、目が泳いで明後日の方を見ている。前日のやり取りでタスクの方からユーリには伝えるということだったので、俺はそのやり取りを傍観することにした。


 助け舟を求めるような視線をタスクが向けてくるのを無視していると、タスクが意を決したように口を開く。


「その、裏面攻略はちゅう…………」

「ちゅう?」

「……中止にして、今日は遊びに行こうぜ! 天気もいいし!」

「おい」


 タスクの方につかつかと歩み寄って蹴りを入れると、肩をホールドする。

 そのままの姿勢でユーリに聞こえないように小声で話をする。


「何だよお前それ。攻略を中断するんじゃなくて、今日だけ遊びに行こうみたいに聞こえるぞ」

「何となく言いづらくてさ……」

「どうするんだよ。俺から言うか?」

「いや、俺から言うよ! 今日は休みにして普通に遊ぼう! どっかのタイミングで伝えるから! 絶対!」

「タスク、お前が言わないんだったら俺から言うぞ」


 それだけのやり取りで内緒話を終わりにし、タスクを解放する。手を離すと、タスクはげほげほと苦しそうにしていた。軽く掴んだつもりが、強かったのだろうか。


「えっと……どうしたんですか?」


 俺達が何を話していたのかが分からないユーリはキョトンとしている。


「いやあ、それがタスクがどうしても今日は遊びたいって言ってさあ。ほら、昨日結構バタバタしてたし! それで、今日は休みにしてみんなで遊びに行こうかなあなんて――どうかな?」

「私は構いません。というか……嬉しいです!」

「え?」

「いや、同年代の友達と遊ぶっていうのが、何か新鮮で……」


 仕方なくタスクに話を合わせてユーリを遊びに誘うと、意外な返事が返ってきた。

 伏せた顔を少し赤くしているユーリはもじもじとしている。記憶がないと言っていたが、確かに俺やタスクとは裏面攻略をするだけで遊びに行ったりはしてなかった。たまに母さんがユーリを連れ出してたりしたが、それとは違うんだろう。


「ユーリちゃんも乗り気じゃん。じゃ、決まりで!」

「お前なあ……」


 上機嫌になるタスクに小声で『ちゃんと言えよ』と言うと、苦笑いと共にジェスチャーで謝ってきた。

 少し予定とは違うが、俺達は最寄りの駅の方に向かうことにする。

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