131.日の国の戦い その3 愚かなる交渉者
僕の叫び声にルペースは訝しげな顔をする。
「うん? なぜ私の名前を。バスティーニから聞いたのか?」
「それはどうでもいいだろっ。リラを解放しろっ!!」
叫ぶ僕に、ルペースが嘲りの笑みを浮かべる。
「ふん、もとよりこんな娘に興味などない。お前が死んだ後で解放するさ」
コイツが元神だって?
この嫌らしい笑みを浮かべたガキが?
これなら、ガングロ女神様の方がよっぽどマトモだ。
「僕が死んだ後って、どうやって殺すつもりなの?」
「簡単さ。確かに200倍の力を持つお前を、物理的衝撃で殺すのは銃でもなければ不可能だ。だが……」
そこまで言うとルペースはいったんナイフを右手に持ち替え、懐から瓶のようなものを取り出し、僕の足下に投げる。
「その中にはアルバカ茸のエキスが入っている。お前が全部飲み干したらこの娘は解放してやる」
――アホなのか、コイツは?
――本当に交渉しているつもりがあるのか?
レイクさんどころか、アル様……いや、豚領主だってもう少しマシな知能戦をやっていたぞ。キラーリアさんより頭が不幸にできているんじゃないのか?
「そう言われて、素直に飲むとでも思うの?」
「この娘がどうなってもいいのか!?」
「僕が死んだ後、リラも殺されるかもしれないじゃないか。逆に、今あなたがリラを殺したらその瞬間、僕はあなたに飛びかかって殴り殺すよ」
こんなの全然交渉になっていない。
相手の無能っぷりに、僕の頭がどんどん冷静になっていく。
「だいたい、僕は両手を失っていてね。瓶の蓋を開けるのも無理なんだ」
僕の発言に、ルペースは「チッ」と舌打ちする。
「蓋が開けられなくても、割ればいいだろっ」
無茶苦茶である。
ほとんど駄々っ子だ。
「何度も言うようだけど、この状況で僕が毒を飲むことなんてありえない。せめて人質を別の人が確保しているとかなら交渉の余地もあっただろうけど、あなたは1人だ。リラを殺すってことは、今のあなたにとっては自殺行為でしかないんだよっ」
ルペースは「むぅ」っとうなり、僕を憎々しげに睨む。
「ならば、こうだっ!!」
ルペースはナイフを振りかぶる。
やけっぱちになってリラを殺すつもりか!?
実際のところ、相手が馬鹿ならば、やけっぱちになられるのが1番困るのだが。
だが、違った。
ヤツが刺したのはリラの脹ら脛。
致命傷にはならない場所だ。
「ぎゃぁぁ」
気を失っていたリラが悲鳴を上げて目を覚ます。
リラの脹ら脛から血液がドクドクと流れる。
「クックック、これならどうだ? この娘はすぐには死なん。だがこのままならばいつか死ぬぞ。その前にお前が毒を飲んで死んでみせれば、治療はしてやろう」
得意げに邪悪な笑いを浮かべるルペース。
――いや、考えた末の行動がそれかよ、お前!?
リラを傷つけられたことは確かに痛手だ。
だが。
「パド……これって……」
目を覚ましたリラは周囲を見渡し、すぐに状況を理解したらしい、
「あんたっ!!」
怒りの目をルペースに向けるリラ。
そして。
リラは浄化の炎をルペースの顔に向けて吐き出した。
「なっ、ぎゃっ」
浄化の炎に熱量はないが、ここまで近接して顔面――すなわち瞳にぶち当てられれば眩しいどころではないはずだ。
ルペースは瞬間完全ひるみ腰になり――僕はその隙を突いて、ルペースに隣接。
手首のない腕で、彼をぶん殴ったのだった。
――いや、本当に馬鹿だ、コイツ。
気を失っている人質をわざわざ刺激して目覚めさせるとか……頭悪すぎるだろ……
地面に転がってピクピクと痙攣しているルペースを見下ろしながら、僕はあきれかえるのだった。
神様との戦いがこんなに簡単でいいのだろうか。これなら獣人や豚領主の方がよっぽど恐ろしかったよ、うん。
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稔が階段を上ってきたのは、ルペースをやっつけてから数分後。
「兄さん!!」
稔は周囲を見回す。
「おう、もう大丈夫だよ」
気軽に言う僕に、稔は怒鳴り返す。
「大丈夫なわけないだろ。リラちゃんの怪我、結構深いぞ」
叫びながら、自分のシャツを切り裂き、リラの足を縛り上げる稔。
とりあえずの出血止めらしい。
「アリガト、ミノル」
覚え立ての日本語でそういうリラ。
その後、稔がリラを、僕がルペースを診療所まで運ぶことになったのだった。
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