130.日の国の戦い その2 対峙の時

 島唯一の神社は、すでに管理者がいない状態らしい。

 十数年前、神主さんが亡くなって以降、跡取りがおらず、島の人々が交代で週に1回掃除をしているだけの状態だそうだ。


 稔曰く、


「神社やお寺も全国的に経営難らしいよ」


 だそうである。


 東京や王都ならともかく、この島やラクルス村みたいに人口が限られている場所では、お寺も神社も教会も成り立ちにくいのだ。

 たとえば、ラクルス村に教会があっても、経済的には村人の寄付だけでは成り立たなかったはずだ。

 この島も、ラクルス村よりはマシとはいえ、限られた信徒しか確保できないだろう。


 ようするに、あの元神を名乗る少年達にとって隠れ潜むのに丁度いい場所ということだ。


「ところで、稔はなんで僕の居場所が分かったの?」


 お寺に向かいながら今さらながらにそう尋ねる僕。


「いや、兄さんそれ本気で言っている? 島の人達におもいっきり目撃されていたけど」


 あ、そういえばそうか。

 ただでさえ、僕の外見はこの島では目立つのだ。

 その僕が、島では見かけない別の少年を引きずるようにして走れば、島民達に印象を残さないわけがなかった。


 ダメだな。

 リラが攫われて、色々慌てすぎだ。


 島の神社は鳥居と小さなおやしろ、それに周辺に広がる墓地だけのシンプルな場所だ。

 僕もこの半年で1回だけいったことがある。

 お父さんや桜勇太のお墓は東京にあるらしいが、母方の祖父母の墓はその墓地にあるのだ。


「だけど、兄さん。リラちゃんを助けるったってどうするつもりなんだい?」

「それは相手の出方次第だけど……基本的には僕がルペースを引きつけて、そのスキをみてリラを助け出す。とりあえず、稔は隠れて見ていてほしい」

「いや、だけどさ、それって兄さんがとても危ないように思うんだけど?」

「大丈夫、さっき僕の力見ただろう? 銃ももうないし、心配はいらないよ」


 そう。

 リラが人質に取られているとはいえ、僕はそこまで悲観的ではなかった。

 銃はすでに壊したのだし、あとは僕のチートでぶん殴って解決くらいに思っていた。

 もちろん、リラを人質に取られている状況ではあるが、逆に言えばそれだけだ。

 真っ正面から出ていっても勝てるくらいに感じていたのだ。


「いや、銃は壊したって言うけどさ、他にもあるんじゃないの?」

「……え?」


 稔に指摘されて間抜けな声を出してしまう僕。


「だからさ、わざわざ神社まで来いって言って逃げ出したんだろう? だったら、そこに何らかの武器とか罠があるって思わない?」


 ――う!?

 確かにその通りだ。

 たとえば、予備の銃をお社に隠してあるとか、普通にありそうじゃないか。

 なんでそんなことも気がつかないんだ、僕は。

 やっぱり、リラのことで気持ちがせいている。


「それはそうかもしれないけど、でも行かないわけにも……」


 などと言っている間に、石畳の階段の前についた。

 この50段ほどある階段を上った先に鳥居とお社がある。


 もし、ヤツがまだ銃を持っているならば、遮蔽物がなく、こちらが目立つ階段を上っていくのは悪手ってことになる。

 僕が、普通の人間ならだが。


「稔はここで待っていて」


 僕は稔にそう言った。


「いや、待っていてって、それはどういう……」


 言いかけた稔を無視し、僕は足に力を込める。

 この場所に多少穴を作ってしまうかもしれないが、仕方が無い。

 階段を歩いてのぼるのは銃で狙われる危険があるし――それに、やっぱり稔は巻き込みたくない。


 僕はチートをフル活用し、空高くジャンプ。


「兄さん!?」


 稔の叫び声。

 僕が飛び上がった衝撃でできた穴に飲み込まれる稔。


 ――ゴメン、稔。

 ――やっぱり、お前を巻き込むことはできない。

 ――しばらくはその穴の中にいてくれ。


 そのまま階段を飛ばして一気に鳥居をくぐりお社の前まで跳んだ。


 ルペースは? リラは?


 僕は周囲を見回す。

 探すまでもなかった。

 お社の扉がゆっくり開き、右腕でリラを抱えたルペースが現れた。

 ルペースの左手には刃物が握られ、リラの首筋に当てられている。

 リラはグタッとしている。気を失っているのか?


「ルペース! リラを離せ!」


 言っても無駄だと分かっていながら、僕は叫んだ。

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