耳が…耳が…耳がついてくる!!
ちびまるフォイ
耳に追い詰められる
誰かにつけられている。
街灯の少ない路地を急いで歩くも、背中越しに気配を感じる。
家まで特定されるほうが怖いので思い切って振り返った。
「あなた誰ですか! なんでついてきてるんですか!!」
そこには誰もいなかった。
その代わりに地面に耳がくっついていた。
「なにこれ……?」
かわいらしい獣のの耳ならまだしも人間の耳なので気持ち悪い。
家に帰って、部屋の電気をつけると壁に耳があることに驚いた。
「うそ!? どうして!?」
耳はいくら引っ張っても取れない。
耳なので害はないだろうけど、
自分の生活音すべてに聞き耳をたてられているのかと思うと気味悪い。
友人に相談してみることに。
『それ耳ストーカーじゃない?』
「耳ストーカー?」
『盗聴みたいなものだよ。でも機械ごしじゃないから
生の音が聞こえることにストーカーは燃えるんだって』
「どうにかならないの?
音を聞かれるのもそうだけど、家に耳があるだけで気持ち悪いんだけど」
『相手は耳なんだしさ。鼓膜破っちゃえばいいんじゃない?』
「なんてバイオレンスな……」
友人の発想には驚かされたが、耳の横にスピーカーを置く自分がいた。
この耳の持ち主に痛い思いさせてやる。
ボリュームを最大まで上げて、大音量のロックを聞かせた。
とっさに耳をふさいだがこちらまでビリビリと音を感じる。
それでも耳はびくともしない。
耳の持ち主が遠くで気絶したとしても、耳にはなんらかの変化があると思った。
でも予想に反して耳は何事もないようにしている。
「もう、なんでよぉ……」
蹴とばしたりしても耳は動じない。
おそらく感覚を切って、通常以上の音量はフィルターをかけているのだろうか。
「家に耳があるんです」など警察に相談もできず、
悩んだ末になぜかお寺へと駆け込んだ。
「なるほど。事情はわかりました。おそらくお経の力でしょう」
「え、お経なんですか」
「さよう。お経にもさまざまありましてな。
痛みを感じなくするお経や、外界からの刺激を抑えるお経もあるのです。
そのお経を体に書けば効果が発揮されます」
「それじゃ犯人は体にお経を書いているんですね。
……でも、服を着ているから見つけようがないですよ」
「むしろ、耳がない人間を探してみては?
あなたの部屋に耳がある以上、犯人は耳がないはずですよ」
「あ! そうですね! ありがとうございます!」
相談のかいあって、やっと犯人の糸口をつかめた。
自分と関わりある人はもちろん、通勤電車から帰り道まで、耳がない人を探した。
それでも見つからない。
「耳がないなんてわかりやすい特徴なのに……どうしていないのよ……」
部屋で漏らしたひとり言も、壁の耳はしっかりと聞いていた。
ストーカーから届く手紙で私はますます戦慄する。
――――――――――――――――
私を探しているようだね。ふふ、ふふふ。
しかしムダだよ。
私は特注の義耳をしているから見つけられまい。
そろそろ音だけじゃ物足りないころだろう。
君が寂しくないように、君の家にお邪魔するよ。
でも、けして私を見つけることはできない。
透明になれる特別なお経があるからね。
あなたを愛する男より
――――――――――――――――
「そんな……!」
和尚の読み通り、ストーカーはお経に精通していた。
次はこの家にやってくる。なにされるかわからない。
慌てて警察に連絡してみるも、被害が出ない限りは動けないの一点張り。
「宛先もわからないし、警備のしようがないですよ」
「そんな! もし刺されでもしたら……」
「その時は犯人逮捕しますよ」
「遅いよ!!」
誰にも当てにできない。
いったいどうすれば助けに来てもらえるのか。
絶望して家に帰った。
家のドアを開けるなり、すぐに警察に電話をかけた。
「もしもし。全身にお経を書いている全裸の男が家にいます」
「ば、バカな! どうしてばれた!?」
私の家に侵入していたストーカーは3秒後に逮捕。
その姿のまま翌日のニュースでさらされた。
『昨日、女性の家に忍び込んだ耳なし芳一さん(42)住所不定・無職
被害者の通報で逮捕されました。
パトカーの中では"鏡見ながらお経書いたから逆さまだった"など
意味不明な供述を続けています。
なぜ全裸だったのか。なぜ体にお経を書いていたのか。
責任能力の有無も含めて警察で詳しく経緯を確認しています……』
耳が…耳が…耳がついてくる!! ちびまるフォイ @firestorage
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