クリスマスに共にあらんことを


 マラソンはマラソンでも、走らないマラソンって、なーんだ?



 クリスマスは日本だと恋人たちが共に過ごす日ですよね。でも、カナダでは家族と過ごす日となっています。


 各家庭によって違いますが、24日のクリスマス・イブに七面鳥のディナーを食べ、25日に教会のクリスマス・ミサに行く人が多いです。そして26日にはボクシング・デーという歳末大売り出しセールに出掛ける、という感じです。日本のお正月とそっくりですよね。


 大家族であれば、24日に両親や兄弟と、25日にはいとこ達とクリスマス・ディナーをするなど、何日かに分けて別の親族とパーティーを行なう人たちも多くいます。


 また、クリスマス・ディナーに呼ばれるのは家族だけではありません。恋人が相手の家族のクリスマス・ディナーに呼ばれた場合、それは「真剣にお付き合いをしている」ことを示します。

そう。クリスマス・ディナーで親に紹介されるか否かで、相手の真剣度が図れるのです。


 私が夫と付き合い始めたその年の暮れのことでした。夫が(その頃はまだ結婚しませんでしたが)私に聞いてきました。

「年末の予定空いてる?」

 私は、「きた!」と思いました。ついに! 親に紹介される日が!

「空いてると思うけど、いつ?」

「スター・ウォーズ好き?」

なんだか嫌な予感がする。

「え……嫌いじゃないけど、なんで?」

「スター・ウォーズ・マラソンに一緒に行かない?」


スター・ウォーズ・マラソン!


○○マラソンと言えば、それはある特定のシリーズを一晩、もしくは数日ぶっ続けで見るイベントのこと。つまり、スター・ウォーズ・マラソンであれば、スター・ウォーズ・シリーズを全て通して見るイベントを指します。


 個人宅でもしますが、この場合は映画館で行なわれるイベントでした。その頃には確かエピソード7まで出ていました。つまり、計7本、約15時間ぶっつづけで映画館の椅子に座り、スター・ウォーズを見続けなきゃいけないんですよ!!


「嫌いじゃないけど……」レベルの人を誘うイベントじゃないだろ! と思ってしばし固まっていると、彼は力強くフォローします。

「大丈夫、途中で席を立てるから。休憩もあるし」

そりゃそうだろ! 15時間休憩なしだったら死んでしまうわ。


「いや、いいです。一人で行ってきてください」

彼は心底残念そうに肩を落とし、付け足しのように言いました。

「あ、25日に家族とのクリスマス・ディナーがあるから」

そっちがおまけかい! 優先順位が色々とおかしいだろ。


 ちなみにカナダでは日本と違い、「親に紹介すること」は「結婚」とは直接結び付きません。あくまで真面目に交際をしているかどうか、という指針になるだけです。そのため毎年違う相手を家族のクリスマス・ディナーに連れてくる人もいます。

 また、そもそも宗教が違ったり、家族が別の国に住んでいるなどの理由でクリスマスを重要視しない人もいます。


 何百年、数千年と続いてきた伝統行事ではありますが、宗教行事なので、どう過ごすかは人によっていろいろ。とはいえ、クリスマスよりもスター・ウォーズ・マラソンか……。彼にとっては、「神と共にあらんことを(May God be with you)」ではなく、「フォースと共にあらんことを(May the Force be with you)」ってことですかね。

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