第13話 龍の血-2

まぶたを開けたルゥが最初に見たものは、自身を心配そうに覗き込むメイの姿。そして同じくルゥを覗き込む龍の姿があった。


「ここは、ドラゴン先生の洞窟……?」


 ルゥは少しの間、何故自分が洞窟に居るのか分からないようであったが、意識を失う前のことを思い出したようで、野豚(ミミウス)の恐怖が蘇る。


「ドラゴン先生、おれ……」


「待ちなァ、ルゥ。意識が無くなったアンタをここまで運んだのはメイさねェ。まずはメイに礼をいいなァ」


「メイ……。 ありがとう!」


 ルゥは喜びの余り、メイに抱き付く。メイは突然ルゥに抱きしめられたことに目を白黒させるが、顔を赤らめてルゥを引きはがす。


「ちょっと、ルゥ。落ち着いて!」


 メイはルゥを引きはがすと、照れ隠しなのか顔をプイっと横に向ける。

そしてルゥは少しだけ落ち着いたのか、自身の腕にかぶり付いていた”双頭の蛇縄(エギ・チューター)”に気がつくと驚いて叫ぶ。


「うわぁぁぁぁっ!? 何だ、これ!?」


 ルゥはそれを振りほどこうとするが、蛇の牙はルゥの腕にしっかりと食らいつき、離れることはない。

その様子を見て、龍は大きなため息を吐くと、その鋭い爪先をルゥへと向ける。


「アンタはそれのお陰で助かったのに、そう無下にするもんじゃないさァね」


「なに、なんなの、これ!?」


ルゥは見たことがないものが自身の腕に噛みついていることに激しく動揺していたが、もう片方の蛇の頭が龍の指先に繋がれているのを見て、ピタリと騒ぐのを止める。

何があったのか分からなかったが、龍が自分自身を助けてくれたのが分かったからであった。


「ドラゴン先生……これは?」


「それは遺物アーティファクトさァ。これでアタシの血をアンタに分けたのさァ」


 そして、その直後蛇の牙がルゥと龍の体から離れる。

そして、洞窟に落ちたその遺物アーティファクトを、龍は爪先で掬うと、隠し部屋へと放り込んだ。

龍は牙の跡を少しだけ擦ると、龍はルゥとメイを睨み付ける。


「まったく、アンタたちは何をやってるんだィ!」


 龍は大きな口を開き、大型肉食獣を窺わせる牙を剥き、その獰猛性を見せつけながら吼える。

今まで見たこともない怒れる龍に、ルゥとメイは体を寄せ、震え上がる。そして、2人は恐怖から涙を流し始める。


「ご、ごめんなさい……龍先生。私、龍先生に喜んでもらおうと思って……」


「アタシがいつ、そんなことを頼んだんだィ!? しかもメイ、アンタはルゥよりも年上なのに、一緒になって狩りをするなんてどういうつもりさァ!? ルゥを止めなきゃ駄目さねェ!」


「お、おれのせいだ……ご、ごめんなさい……」


「アンタたち2人とも反省するべきさァ。 ……罰として一ヶ月はここには来るんじゃないさァね」


「……で、でも」


「でも、じゃあなィ! 分かったなら、早くアタシの家から出て行きなァ!」


 その龍の剣幕にルゥとメイは急いで、龍の住処から退散する。

その後ろを、洞窟の入り口で待っていた母狼が2人の背を追いかける。


「まったく、死んだらどうするんだィ。それにしても、アタシの血がルゥの体の害にならなきゃ良いんだがねェ」


 その2人と1匹の背を見つめると、龍は大きくため息を吐いたのであった。

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