第8話 龍と魔法と狼と-2

龍の爪先に赤い蒸気が立ち上がったと思うと、それは爪先に集まり大きな矢のようになる。

そして静かに、龍はつぶやく。


「”火炎矢アド・グレス”」


その瞬間、赤い蒸気は燃え上がり、爪先から発射される。燃え上がった火炎の矢は、洞窟の壁にぶつかり、はじけて霧散する。


「これが、アンタたちにこれから教える魔法さァ。これなら、何かあっても身を守れるし、狩りも出来てお腹も空かさずに済むだろォ?」


「そ、それで、どうすればそんなすごいのを覚えられるんだ!?」


ルゥは興奮して、龍に向かって叫ぶ。メイの方もまた、生まれて初めて見る派手な魔法に興奮を隠せないで居た。


「まずはそうさねェ……取りあえず、目をつぶって感覚で覚えてもらおうかねェ」


そういうとルゥとメイはぎゅっと目をつむる。そして龍はルゥとメイに爪先で触れると再び、魔法を唱える。


「”火矢グレイス”」


 先ほどとは違い、龍の爪先からとても小さな、小さな火の矢がゆっくりとルゥとメイの頬を撫でて、暗闇へと消えていく。

ルゥとメイは火の暖かさとは別に、不思議な感覚が肌を撫でた。


「なんだ、これ!」


 ルゥは今まで味わったことのない感覚に、思わず叫ぶ。同時にメイも興奮してか、短い叫び声を上げる。


「その感覚が、魔法を使えるようになる、第一歩さねェ」


龍は2人に向き直すと、魔法について語り始める。


「魔法ってのは、生き物が持っている気を使うのさァ、ある意味生命力と言い換えても良いかもねェ。それは普段は体の中を巡っているだけなんだが、訓練すればそれを体から出せるようになるんだァ。その体から出した気を操れれば、さっきのような”魔法”が使えるっていう寸法さねェ」


 ルゥとメイは頭に疑問符を浮かべながら、小首をかしげる。その様子を見て、龍は目を細める。


「まぁ、小難しい話は後にしようさねェ。とにかく、さっきの感覚を体に覚えさせようかねェ」


龍は爪先を2人に差し出すと、爪を掴むように促す。

そして龍の爪先から、赤い蒸気が立ち上り始める。


「さあ、授業の始まりさァ」


 そうして、ルゥとメイは龍から魔法を教わることとなる。

魔法に触れ始めて、ルゥは3日、メイは2日で気を体から外へ出すことに成功する。





*





 そしてそこから、6日ほど経った頃。ルゥとメイは龍の住処を訪れていた。そして2人の後ろについてくる、母狼と4匹の子狼たち。ルゥとメイは龍の前に立って精神統一をすると、同時に魔法を唱える。


「「火矢グレイス!」」


 2人の手の平から、小さな火の矢が放たれて宙に消える。

初めて自分たちが魔法を使えたことに興奮して、2人でハイタッチをする。


「やったー!これで、なにに襲われても怖くないぞ!」


その2人の様子を見ながら、龍は口元を緩ませる。龍の永い時間の中で、人にものを教えること、その教え子たちの成長を喜ぶ自分に内心では驚いていた。

その自分自身の変化に。


そしてルゥとメイにも変化が訪れていた。


「ありがとう! ドラゴン先生!」


「ありがとう! 龍先生!」


 2人が龍のことを、先生と呼び始めたことであった。

2人はきらきらと目を輝かせ、龍の次の話を待っていた。


「アンタたち、飲み込みが早いねェ。じゃあ、次はもう少し難しいことを教えようかねェ」


そして、龍の魔法の授業はその日も続いていくのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る