第6話 母と子の食卓

 ルゥたちと龍がお茶会をしたその夜。

ルゥは自宅で、母親のアレリアと食卓を囲んでいた。その食卓の上には、野豚のハムに葉物野菜を和えたもの、ミルクのスープ、焼き上げたパンが並んでいた。

 それらの料理から湯気が立ち昇り、良い香りが部屋に充満していた。

手際よくアレリアはパンにバターを塗りつけ、ルゥの皿に乗せる。


「それで、ルゥ。あんた、昨日の深夜にどこへ行っていたの?」


「えっ!?」


 ルゥは右手にパンを掴んだ状態で、母親の方を見ながら固まる。母のアレリアは頬杖をつきながら、ルゥの目を正面から覗き込む。

ルゥはその母の視線から逃れようと、視線をあちらこちらに泳がせる。


「も、森に行って遊んでいたんだ」


「ふぅん? あんな真夜中に? あんた1人で?」


「よ、夜にしかいない虫を捕りに行ったんだよ! メイと一緒に行ったんだ!」


「そう? メイちゃんがあんたと一緒にねぇ?」


 アレリアはニヤニヤと笑いながら、ルゥを少しづつ追い詰めていく。いつもなら腕白少年のルゥも、このときばかりは借りてきた猫のように大人しくなる。

そして動揺からルゥは手に持ったパンを口に運ぶか、皿に置こうか迷って、ふらふらとパンが宙に浮かんでいた。


「ほ、本当だって!」


「まぁ、深くは聞かないけど、あんまり危ないところに行っちゃ駄目よ? ……もちろん、メイちゃんもね」


「分かってるよ!」


「さあ、冷めないうちに食べちゃいなさい」


「うん!」


 ルゥはようやく手に持ったパンを口に運んでかぶりつく。そしてパンが口に残ったままで、ハムも口に入れる。

ハムの塩辛さが、パンの甘さを引き立てる。ルゥは料理のおいしさに、口元を緩ませながら、アレリアを見る。アレリアは頬杖をついたまま、微笑んでルゥの頭を優しくなでる。


「どう? 美味しい?」


 大きく頬張りながら、ルゥはパンとハムをミルクのスープで流し込む。

そして一息ついたルゥは大きく一言。


「うん!」


「そう、良かった」


 そして母と子は1つの食卓を囲みながら、夕飯の穏やかな時間が流れていった。

そして小一時間ほど経ち、食卓に並べられた料理たちはすっかりと空になる。お腹が一杯になったルゥは、大あくびを1つ。そのルゥの様子に、皿を片付けていたアレリアが声を掛ける。


「もう遅いから、早くお風呂に入って寝ちゃいなさい」


「ふぁ~い」


 あくびをしながら、お風呂場に向かってルゥは歩いて行く。その背に向かってアレリアは「ちゃんと、歯も磨くのよー」と声を掛けて見送った。

そしてアレリアは腰を数度軽く叩くと、背伸びをしてあくびをつく。

 アレリアは食卓の上に飾ってある

、額縁に納まっている1枚の絵を手に取る。そこには、ルゥに似た大人の男が描かれていた。


「ねぇ、あなた。私たちの息子は、今日も元気に森で遊んでいたのよ。腕白で……誰に似たのかしら?」


 アレリアは笑いながらも、目元は潤み、頬に一筋の涙が流れる。


「あなたが無くなってから、もう6年。私はちゃんと、あの子を育てられているのかしらね?」


 アレリアはゆっくりとその額縁を食卓に戻すと、皿を洗い始めたのであった。

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