第16話〜決別〜
サクラさんが、フウさんと話してる間にみんな完全回復してた。これで、戦える。
「そらさん、ワタルさん!こっち!」
サクラさんに呼ばれて行くと、フウさんの表情はなんだか暗かった。
「これから、それぞれの相手に集中して戦闘。本部長の精鋭部隊はここまで来れずに退却してるからそのつもりで。」
アスカさんはその後も作戦をみんなに伝える。きっと、サクラさんたちが話してる間にカエデさんと考えてたんだろうな。
「みんな分かった?」
「はい!!」
基本的には最初の作戦と変更なし。ただ、気掛かりが一つ。
「あの、サクラさん。体調は大丈夫ですか?」
サクラさんはあれだけ大規模な魔法を使って、みんなを回復した。なら、かなり身体的に苦痛が来てるはずなのに・・・。
「うん、大丈夫だよ。」
そう言われても、安心出来ない。なんだろう、胸騒ぎがして仕方ない。
「それじゃみんな、行くよ!!」
アスカさんがそう言うと、サクラさんは結界を解く。その瞬間、女の人の黒い球が飛んできた。
「はっ!」
それにアスカさんが応戦する。その爆発を利用して、フウさんとカエデさん、ワタルくんが飛び出す。それを私たちは援護する。
「・・・っ!」
私はあの人を狙って矢を放つ。全然当たらないけど、あの人の支援魔法を邪魔する事が出来る。それが一番の支援になる。
「ワタル、俺が分からないのか?」
不意にそう言われて、ワタルくんが立ち止まる。
「俺はお前の親だぞ!親に向かって剣を向けるとは何事だ!!」
その声にワタルくんが怯える。小さい頃、育てられてた頃の事は憶えてなくても、親に怒鳴られればそうなるよね。
「ワタル、こっちにおいで。大丈夫、恐がらなくていいんだ。」
そう言ってあの人がワタルくんに向かって手を出す。その瞬間、ワタルくんはフラフラとあの人に向かって歩き出した。まるで、操られてるみたいに。
「ワタルくん?」
「そう、それでいい。」
おかしい、明らかにワタルくんの意志じゃない。
「ワタルくん!!」
大声を出しても、ワタルくんは止まらない。基本的に私たちは動いちゃいけないけど、我慢出来なかった。
「そらさん!!」
サクラさんの止める声が聞こえたけど、私はワタルくんに駆け寄った。
「ワタルくん!待って!」
私が腕を揺さぶっても止まらない。なんで、どうして!
「ワタルくん!負けないで!ワタルくん!!」
そう言うと一瞬だけ止まってくれる。でも、その後も動き続ける。どうしよう・・・。
「邪魔だ。」
あの人がそう言うと剣が光る。そして、黒い球が飛んでくる。
「ワタルくん!!」
それがワタルくんを狙っているように見えて、急いでワタルくんの前に出る。なのに、ワタルくんは私の腕を掴んで、背中に隠した。
パーン!!と破裂音が聞こえて前を見ると、ワタルくんが球を斬った音だと分かった。
「なっ!!」
あの人がワタルくんを見る。ワタルくんは足を止め、私が前に出ないように空いてる手で制していた。
「ワタルくん?」
「なぜだ!!そいつはこの事件の元凶の一人だぞ!!そいつの父親が危険な力を見つけ、そいつはその力をその身に宿した。だから、あの争いが生まれたんだぞ!?それが、この事件の発端だ!!なら、そいつを殺せば、この事件は、戦いは終わる、そうだろう!?なのになぜ!!」
「そんなのは、関係ない。」
ワタルくんはきっぱりとそう言う。それから、私を少し振り返って頷いた。
「俺は、この子がいればそれでいい。」
「ワタルくん・・・。」
「ふざけるな!!」
あの人はそう怒鳴る。それでも、ワタルくんは動じない。
「そいつを、そいつを殺せばこの世界は平和になる!そしたら、私たちはまた、親子に戻れる!また二人で暮らそうとは思わないのか!?」
「聴こえなかったか?」
ワタルくんは、低い声でそう言う。焦ってるわけじゃない。起こってるんだ。
「俺には、この子さえいればいいんだ。だから、この子を殺そうとする人間は、必要ない。」
それを聞いた時に、何かが頭をよぎる。記憶とは、言えないかもしれない。なのに、懐かしいもの。
『俺には、ヒメさえいればそれでいいんだ。』
そう言った男の人と、前に見た夢の男の子、そしてワタルくんか重なって見えた。
ああ、そうか。御先祖様の記憶がなくても、残ってる物があったんだ。ワタルくんは、あの男の子なんだ。いつも、昔からいつも側にいてくれたんだ。
「ワタルくん・・・。」
「ごめんね、そら。手伝ってくれる?」
私が呼ぶと、肩越しに振り向いてそう言ってくれる。もちろんだよ。私たちはパートナー同士なんだから。
「うん、一緒に戦おう!!」
私がそう言うと、しっかり頷いて前を向く。
その時、頭の上に違和感を感じて上を向いた。
「これ・・・?」
そこには、私の真上を中心に、青空があった。これ、どういう事?
「そら?何したの?力が湧いてくるよ!」
「え?」
ワタルくんが困ったようにそう言った。え?これ、私の力?
『祈りを・・・。』
どこからな女性の声が聞こえる。でも、怖くなかった。私は、手を組んで祈った。
「力を・・・。」
見てはいない。でも、確実に空から光が降ってきたのが分かった。
「はあ!!」
ワタルくんがあの人に向かって走り出す。でも、私はひたすら祈った。ワタルくんが強くなれるように、勝てるように。
それから、皆さんの事も考えた。サクラさんたち、アスカさんたちが勝てるように。
「・・・くっ!」
ワタルくんが戦ってる。私は、それを支援出来てるかな?分からないけど、大丈夫なのかもしれないって思う。
そして、前方での戦闘音が消えた。
「・・・っ!!」
気になって、前を見るとワタルくんがあの人の喉元に剣を突き付けてた。私は、急いでワタルくんの横に並んだ。
「あんたを親とは認めない。」
「そうだろうな・・・。」
「でも・・・!」
それから、ワタルくんは一瞬躊躇ってから口を開いた。
「でも、一度くらいは、『とーさん』って、呼んでみたかった。」
ワタルくんの言葉にあの人は目を見開く。ワタルくんは、目に涙を溜めて、自分の親と決別したんだ。
「ワタルくん・・・。」
檻の代わりの結界に入れてから呼ぶとワタルくんは少し寂しげに笑った。
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