第8話〜相手からの誘い〜
ワタルくんと本部長室に向かうと、すでにアスカさん、カエデさんの二人がいた。
「お疲れ様。早いね。」
「アスカさんたちこそ。」
そんな風に笑い合いながらも、お互い表情は硬さを残してた。アスカさんも感じたんだ、これが『最後』って。
「サクラたちが来てねーんだよ。」
「そういえば、そうですね。」
カエデさんの言葉にワタルくんは頷く。真っ先に来てると思ったからちょっと意外だな。
「まあ、あの二人はね。」
アスカさんはそう言葉を濁す。カエデさんも「仕方ない」みたいな顔をしていて、ワタルくんと一緒に首を傾げた。
「遅れました。」
そうこうしていると、フウさんとサクラさんがやって来る。二人とも、緊張してるみたいだった。
「本部長、今のサイレンは・・・。」
「ああ、ついに、その時が来たみたいだ。」
本部長さんの言葉に全員が息を飲む。分かってた事だけど、言われると怖くてたまらない。まだ来ないと思ってた、まだ、来ないでほしいと思ってた。
「ここ宛てに、映像が届いたんだ。それを見てほしい。」
そう言って、本部長さんがモニターを操作すると出て来たのはさっき出された男の人。すぐ隣で息を飲む声が聞こえる。
「ワタルくん―」
『やあ、皆さん。ご機嫌はいかがかな?』
ワタルくんに声をかける前に映像が始まる。
『今日は君たちにとって最高の日になる!なぜなら、この事件の元凶、サクラ・フルール姫が死ぬからだ!』
「はあ!?」
「わた、し・・・?」
カエデさん、アスカさん、フウさんが怒りの声をあげ、サクラさんは呆然と呟いた。
『どうだ、愉快だろう!!そもそもサクラ姫が強く危険な力を持っているのが悪いのだろう!ならば、そのサクラ姫が死ねばいい、そうだろう!!』
「ふざけんな!!」
堪え切れなかったカエデさんがモニターに近付く。
「今すぐ、今すぐあいつの所に行って、あいつを締め上げたい・・・!」
抑えられた声でもはっきり分かるくらいの殺気を放ちながらアスカさんが言う。そして―
「サクラ、大丈夫?」
ただ一人、フウさんだけがサクラさんを気遣った。
「フウ、くん。わたし、わたし・・・!」
「うん、大丈夫。誰もあいつの言葉なんて信じないから。大丈夫。」
涙声でそう言うサクラさんを落ち着かせるためにフウさんは「大丈夫」と繰り返しながら抱き締める。私たちはただ、戸惑ってるしかなかった。
あの人の話は続く。
『さあ、サクラ姫が亡くなるために私はパーティを開催する事にした!場所はこのデータに入れておこう!早く来ないとパーティが終わってしまうから早く来なよ!あ、サクラ姫を連れて来ないと中には入れないからね!』
そこで、映像は終わった。
「なんなのよあいつ!!ふざけるのも大概にしろって感じなんだけど!!」
「ほんとだよな!今すぐ乗り込んでそのパーティぶっ潰してやる!」
「落ち着きなよ!」
怒りを露わにする二人を留めたのはフウさんだった。フウさんはそう言ったあともずっと、サクラさんを抱き締めてた。
「今はとにかく、冷静さを欠いちゃいけないよ。みんな、落ち着こう。」
そう言うと、皆さん少しだけサクラさんを見て、それから頷く。
「さて、とりあえずを決めないといけないね。まずはサクラとフウは座ろうか。それと、そらとワタルも。アスカとカエデは立って頭を冷やしなさい!」
「はい。」
本部長さんの言う通りに座る。サクラさんはフウさんに縋りついて顔をあげない。
「すみません、本部長。しばらくこのままで良いでしょうか?」
「構わんよ。むしろそうしていなさい。」
「ありがとうございます。」
やっぱりショックは大きいもんね。今も、サクラさんとワタルくんは全然話さない。ワタルくんも、ずっと顔を下に向けたままだった。
「ワタルくん、大丈夫?」
私が声をかけて、ようやく顔をあげると、少し笑って私の手を握ってきた。
「ごめん、しばらくこのままでいさせて。」
「いいよ。」
こうやって、甘えてくれるのすごく嬉しい。
「話に入ろう。」
そう言って、作戦みたいなのをみんなで固める。
明日の朝決行で、班は四つ。一班は本部長さんの精鋭部隊で、基本的に歩兵みたいな人たちの相手をしてもらう。二班はアスカさんとカエデさん、その二人に本部長さんの精鋭部隊の数人。その人たちはディーアブル・マルベイの相手。三班はサクラさんとフウさんだけ。基本的に一、二班の精鋭部隊の人が援護出来たらするって感じで、主にベルゼブル・マルベイの相手。そして、四班が私たち。その相手は映像のあの人。
これが一番いい組み合わせ。
「良かった。そらと一緒なら、俺戦えそう。」
そう言って笑うワタルくんに私も頷く。
―『もし、この事件が、あの頃、私たちが姫だった頃と同じように進むとしたら、歴史を繰り返す事になる。』
―『あの時、私たちの先祖は『死』を選んだ。大切なものを護るために。』
あの時、サクラさんはそう言った。忘れる訳がない、その言葉。
でも、それと一緒に思い出すのが、私の決意。
―『私、ワタルくんと一緒に生きたいです。』
私は、あの時そう言った。そして、今もそれは変わらない。私は、ワタルくんと生きたいんだ。
「頑張ろう。」
「うん。」
そう言い合うと、なんだかいつもの任務とあまり変わらない気がしてきた。
「その意気だ。まずは今日、しっかり休んでくれ。」
「はい!!」
全員で返事をして解散になる。明日始まる決戦が、これからの事を決めてしまうのが怖いけど、やるしかないって思った。
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