第5話〜やるべき事と悪夢〜

 そらさんたちとご飯を食べた後、私は少しそらさんとお話がしたくて、そらさんだけ部屋に招き入れた。

「あの、お話ってなんですか?」

 部屋に入るなり、そらさんは不安そうに聞いた。元々心配性なのかな?

「ん?これからの事を話したくてさ。二人で。」

「私たちだけでですか?」

 そらさんの言葉に頷けば、そらさんは首を傾げた。

「他の人もいていいのでは?」

「いや、二人だけ。この話は、二人でしかできないの。」

「へ?」

 そう言うそらさんに、私は色んな事を話す。前世で私たちがどういう関係だったのか、そして―

「もし、この事件が、あの頃、私たちが姫だった頃と同じように進むとしたら、歴史を繰り返す事になる。」

 私がそう告げると、そらさんは息を飲んだ。

「あの時、私たちの先祖は『死』を選んだ。大切なものを護るために。」

「それって・・・。」

「うん、それくらい、事態は悪かった。でも、今はそうなる前に動けてる。」 

 前世の記憶を持ってる分、それは確信出来る。今は早く動ける。それが何より嬉しい。

「私、ワタルくんと一緒に生きたいです。」

 不意にそらさんが話始めた。

「うん。」

「たしかに、任務に出て、危険な事はいっぱいありました。それこそ、死を覚悟する事も。」

 そんなに危険な任務にも行ってるんだ。大変だな。

「でも、その時いつも、ワタルくんが助けてくれて、だから、今度は私がワタルくんを護りたいんです。」

 その瞳には、確かな覚悟があった。

「教えて下さい。私は、何をすれば良いですか?」

 それは、まだ分からない。でも、言える事は一つだった。

「今は、そうだな、いつあの人たちが動き出すか分からないから、充分に体を休めつつ、鍛錬を怠らないこと、かな?」

 私がそう言うと、そらさんは一瞬キョトンとした。

「しっかり休んで、すぐ動けるようにしといてってこと。」

「あ、なるほど!分かりました!」

「うん、よし!」

 そう言ってそらさんは頷く。なんだか、妹みたいで、可愛いな。

「とにかく、今日のところは寝ようか。部屋、分かる?」

「はい、案内してもらいました。」

「そう。じゃあ、おやすみ。また明日。」

「はい、おやすみなさい。」

 そう言って、そらさんは出て行った。

 やっと、やっとこれで、一安心。まだ、そらさんが襲われてなくて良かった。問題はこれから。今度はぜったい守り抜いてみせる。そう思ってベッドに入った。


 どこまでも続く荒野。周りにはたくさんの人が倒れてる。その中心に、私は座ってる。

 また、この夢。記憶を取り戻してからずっと見てるこの夢は、何か意味がある。ってずっと思ってる。でも、怖くて意味を知りたくない。

「フウくん!」

 一番近くにフウくんたちが倒れてて、一気に怖くなる。この後、どうなるか知ってるから、この先を見たくない。なのに、夢は、悪夢は、終わらない。

「サクラ、そんなやつに構ってないでこっち来いよ。」

 ベルゼブルにそう言われる。そっちには、行きたくない。

「いや、です。」

 私がそう言うと、「そう。」とだけ言ってこっちに来る。しかも、後の二人も。

 殺される。分かっているのに、私の足は動かない。私は、フウくんたちを護りたい。でも、弓すら出せない。

「そう、君は自分の運命を受け入れるんだ。」

 そう言ってベルゼブルが剣を振りかぶる。

 そして―


「いやああ!」

 そこで目が覚める。周りを見渡しても私一人だけで、それが余計に不安を掻き立てる。

 ただの夢。いつも見る夢。そう思っても不安は拭い切れない。

 そのうちにノックの音がする。急いでドアに駆け寄って扉を開けると、フウくんが息を切らして立っていた。

「また、あの夢?」

「・・・うん。」

 涙声で私が言えば、フウくんは優しく抱き締めてくれる。それに縋って私は泣く。

「大丈夫、ここにいるよ。みんないるよ。大丈夫。」

 優しくそう言ってくれるから、安心できた。

 あの夢の内容を知ってるのは、フウくんと私だけ。こうして、駆けつけてくれるのはフウくんだけだから、せめてなんでこうなるのか言わないといけないと思って話した。フウくんも、その夢の内容を理解してくれる。だから、毎日悲鳴をあげても怒ったりしないんだ。

「部屋、入ろうか。」

「うん。」

 そう言って部屋に入るとフウくんはお茶を入れてくれる。そのお茶を飲んでやっと落ち着く。

「いつも、ありがとう。」

「いいよ。毎日毎日辛いね。」

 そう言って頭を撫でてくれる。それが心地よくて、いつも身を委ねてしまうんだ。

「よしよし。もう大丈夫だからね。」

「うん。」

「そういえば今日、サクラが寝てる時にね・・・。」

 私が落ち着いたころにフウくんはその日起きた面白い出来事を話してくれる。それを聞いてるうちに段々眠くなってく。そうして寝れば、その後は悪夢を見る事もない。

 こうやって、最近は寝ていた。そして、多分今日も寝る。

「そろそろ眠い?」

「・・・うん。」

 優しい声に促され、ベッドに入る。

「おやすみ、次はいい夢見れるといいね。」

「うん、おやすみ。」

 そう言って私は眠りについた。明日から、またやらないといけない事がある。そのためにも、しっかり寝ようと思った。

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