第8話〜数百年越しの夢〜
目を覚ましたのはテントの中だった。長い期間の任務で使われるしっかりしたやつ。中にはフウくんが一人だけ。私に背中を向けて何かしていた。
「・・・フウくん。」
私が声を掛けると、フウくんは弾かれるように振り返った。目が充血していて、ひと目で寝てないって分かった。
「サクラ、お帰り!」
「きゃ!」
フウくんはそう言いながら思いっきり抱きついてきて、私はそれを支え切れず後ろに倒れてしまった。
「あ、ご、ごめん。その、目を覚してくれて、嬉しくてつい・・・。」
そう言って私を優しく起こしてくれる。ああ、いつも通りだな、と思ってしまうのは、きっと記憶を取り戻したから。前世の記憶を全部、思い出したから。
「ただいま、フウくん。全部、思い出して来たよ。」
「よかった・・・。」
フウくんは、本当に嬉しそうに笑った。それから、すぐに後ろから小さな箱を出してきた。
「サクラが目を覚ます少し前に、この弓が出てきてもしかしたらって思って用意してたんだ。」
フウくんが言う通りご先祖様からもらった弓は、私がさっきまで寝ていた場所のすぐ隣にあった。
「ほんとだ、全然気づかなかった。あれ?でも、指輪がない・・・。」
「だから、用意してたって。」
私が指輪を探そうとするとフウくんは苦笑いしながら言った。
「ご先祖様の指輪って、俺のご先祖様からの婚約指輪だったんだよね。」
「え?そうなの?なら、きっとご先祖様が持ってったのかな?」
そういえば、ご先祖様指輪は返してくれなかったもんね。
「だから、俺のでよければもらってくれないかな?」
「へ?」
そう言いながらフウくんが開けた箱の中には、小さな宝石の付いた指輪。もしかして、これって!
「婚約指輪。前世ではだめだったけど、今世では一緒になりたいんだ。それに、なにより『今」』の俺は、『今』のサクラが大好きなんだ。・・・サクラは、どうかな?」
そんなの、嬉しくない訳がないし、断る理由もない。嬉しくて、言葉が出ない。どうしたらいいか分からなくて、今度は私からフウくんに抱きついてしまった。
「わ!サクラ。危ないよ。って俺の言える事じゃないね。」
そう言いながらフウくんはしっかり支えてくれる。倒れる事もない。強くて、たくましい腕に支えられるのが、嬉しかった。
「私も、『今』のフウくんが大好き!ずっと、一緒にいたい!!」
そのままの体制で言うと、フウくんはただ一回「うん。」と優しく言った。
お互いに『今』と言ったのは、きっと昔からのめぐり合わせなんかじゃないっていう意味。昔なんて関係ない、今のあなたが好きって、そういう意味。
「ありがとう。」
だから、私はこれからもこの人と一緒にいる。今度は、絶対離れたくないから。
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