第8話 剣-拳=敗北
千聖が目を覚ましたのは、夜も更けて生徒がすでに全員帰宅したころだった。
「ち、
「
意識がはっきりしてくると、薬品独特の匂いを感じ取った。
ただそれだけで、自分が寝かされていたのが医務室のベッドだと分かる。
「私は……」
「そのまま寝ててください。外傷はひどくないですが、大事を取って明日の朝までは安静にして、と
体を起こした千聖に咲が優しく語り掛ける。
目覚めたばかりの千聖の表情は、どこか晴れやかだ。
「……自分の弱さを痛感したわ。でも……今回は得るものがあった。まったく皮肉な話ね、負けたからこそ、得たものがあるなんて」
「……あー、そのことなんですが……」
今まで穏やかな顔をしていた咲が、千聖の発言を聞いた途端に気まずそうに顔を逸らす。気遣っているのだろうか、と千聖は考えるがどうにも様子がおかしい。
あからさまに何かを隠されている気がして、千聖は咲に問いかける。
「咲? 何かあったなら言ってちょうだい」
「は、はい! 実は今日の模擬戦の結果についてなんですが……」
そこで一旦言葉を止め、咲はポケットから四つ折りにされた紙を取り出した。
それは今日の『結果報告書』だ。
結果報告書とは、文字通りその模擬戦の勝敗結果の記載された書類のことである。記載内容はそれだけではなく、模擬戦を観戦した教師陣から良かった点や悪かった点も明記される。簡単に言ってしまえば評価シートだ。
その書類を受け取り、千聖は紙を開いていく。咲が何を伝えたいのか分からず、疑問に思いながらもまずは今回の勝敗結果に目を通し――
「……は?」
そこに書いてある文字に、思考が停止した。
『火野千聖VS篠宮凌我 模擬戦結果報告
篠宮凌我の降参により、火野千聖の勝利』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます