第4話恋する俺は学校の相談屋④
ちゃぽん
ふぅ……。
やはり風呂はいいもんだなぁ。
彼女が帰った後、しばらく考えた俺であったが結局いい案は出ず、帰宅せざるを得ない時間になってしまったのである。
それにしても、だ………。
聞いた時はどこにでもありそうな簡単な問題だと思っていたが、これが意外と難しい問題であった。
なによりも彼女が特別であるのが障害となっている。
もし彼女が付き合えたとしても、これから受験で時間の取れない彼女との間でうまく行くとは限らない。
彼女と同じところを目指すという案も無理だろう。
ここらで一番賢い学校に行くというのであれば、学年に1人か2人しか出ないような築岳大学しかない。
あそこはそこらの学生には無理だろう。よってこの案も無しだ。
彼女が大学を諦めるという道はあるのだろうか。
いや、彼女のような将来を期待される人には無理だな。
人は時に別の人に勝手に期待し、自分の要望を押し付ける。
完璧超人と言われる彼女ならなおさらのことであろう。
そして彼女はその期待を裏切らないだろう。それは、彼女が「優しい」人だから。
至って普通に簡単に、他人の欲求のために我が身を切るだろう。
しかしそれも一つの人生だ。
間違っているとは俺に断言できることではない。
やはり諦めるほかないのか?いや待てまだ何かないか……………
俺が解決の糸口を模索していると、
「おーい、いつまで風呂入ってんのーーー?」と外から母に声をかけられた。
うぉ………軽く一時間以上風呂に浸かっていたようだ。
また出てから考えよう……
体を拭き、服を来てからリビングに向かうと
「長かったわね〜。寝てたの?」と陽気な母が聞いて来た。
いや風呂で寝てると思ったらせめて様子見に来いよ………適当に声かけるだけって………
そんな俺の気持ちは読み取ってくれなかったが、母は別の事を察したようで
急に難しい顔をすると
「何か悩み事?」と聞いて来た。
「別になんでもな…………」
言いかけて途中でやめた。
普段は陽気なおかんだがこんな人でも人生の大先輩。
なんかヒント得られるかも………?
「なぁ、母さん。母さんは恋と進路だったらどっち選ぶ?」
「あら!あんたでも恋愛の悩み持ってるのね!!!」
違うそうじゃない。
「ちげぇよ…友達の話。どっち優先するか迷ってるんだって。」
俺が訂正すると母は目を瞑り改めて考え直し、そして真剣な目で
「進路だね。」と言った。
「進路だよ。やっぱり。出会いは今その時絶対必要なものじゃない。その時の想いはその時しか得られない!っていう人もいるけど、高校から大学への進路の方が選択するだけの価値がある。第1、もし仮に同じ学校に入って付き合っても大学在籍中に別れたらどうするのさ。後に残るのは不本意な学校生活のみ。そん時辛くなるのは他ならぬ本人だよ。」
母は一度言葉を切り、穏やかな顔になると
「今は甘酸っぱい気持ちが強くて恋を大事にしたいかもしれない。でも私は20過ぎて結婚してから知ったよ。恋も大事だけど、一番大事なのはその恋が愛に変わるかどうか。後悔しないかどうか。でもまぁ、私たちは恋愛結婚だったから恋もやっぱり大事にしてほしいけどね。焦らずゆっくりすることだよ。」
と優しく言った。
「……………………………………。」
母は先程から何も言わなくなった俺を不審に思ったのか
「おや、どうしたの?」と聞いて来た。
「いや………母さんがそんなまともなこと言うとは思ってなかったからね。」
「失礼ね。年重ねてるだけあるのよ。」
「サンキュー。母さん。参考になった。」
「次はテツシの恋が聞きたいわね〜。」
俺は返事の代わりに笑顔を見せ、自分の部屋へと戻った。
母さんのアドバイスは本当に参考になった。
下手に歳重ねてない。
これでようやく、俺の結論が定まった。
ごめんな、母さん。期待してる俺の初恋は実らないかもしれないけれど。
初恋相手のために、全力で仕事をするよ。
俺は相談屋だから。
賽は投げられた。
俺にとっちゃ後悔する内容になるかもな。
でもそれでもいい。
西条さんの役に立てるのなら
仕事を全うできるのなら
それでいい。
自分に言い聞かせている言葉とは裏腹に、俺は拳を無意識にも固く握り締め続けていた。
言うだけ言って他人に任せる。
俺が最も嫌いなチョイスが、頭を占めているその現実に…
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