第3話恋する俺は学校の相談屋③
終礼が終わると、俺はそそくさと教室を後にし、いつもより早めに図書館にある部室に飛び込んだ。
「掃除しとくか…。」
彼女はまだここに来たことはないはずだ。
約束の時間まで30分ほどある。見栄えだけは良くしとかないとな。
積み上げている本を片付け、カーペットに掃除機をかけ、本棚も正しておいた。
本棚もラノベや少しエッチな本は当然見えない位置に置いた。
ほかにやることはないだろうか……
あ、そうだ!飲み物の準備をしなければ!!—————————————————
そうこうしているうちに、約束の時間が近づいて来た。
今までで一番重要な客だ。
最高の仕事をしないとな。
コンコン
ノックだ。彼女だろう。
「どうぞ。」
「はい…失礼します。」
控えめな言葉とともに、西条 美波はついに部室に入ってきた。
彼女は部屋を興味深そうに眺め、
「綺麗にしてますね。それに本に囲まれた素敵な部屋です。」と微笑んでくれた。
俺は心の中で飛び上がりながら
「ありがとう。どうぞ、席に掛けて。」と彼女から一番近いイスをひいた。
彼女は笑顔で「ありがとう!」と言い、席に着いた。
よし……いい感じだ…………
さて、次のステップへ……
内心で常に気を使いながら、話を進めた。
「それで相談事って…?」
「あ…うん。そうだね…」
彼女の顔から笑顔が消えた。
それと同時に俺もスイッチを切り替えた。
さて、今からは仕事だ。
気持ちを切り替えた俺は、彼女の次の言葉を待った。
彼女もなかなか言い出せないようにしていたが、俺の真剣な表情を見ると一つ大きな深呼吸をしてから
「鍵谷君には私はどう見えてるの?」と聞いてきた。
「…………?」
いまいち何が言いたいのかわからない。
とりあえずその質問に答えとくか。
「…そうだな。成績優秀、品行方正、スポーツができてコミュニケーション能力も高い完璧超人…で、後はあれだな。美人。」
ちょっと顔をそらしてしまった。
流石に最後のは恥ずかしい……が、質問に忠実に答えるとしたら必要条件である。
「あ……ありがとぅ…………。」
西条さんもモジモジと恥ずかしそうにしている。が、
「そうか……完璧、か………」
よく聞こえない。何か腑に落ちないところでもあったのだろうか。
それとも俺がなんか余計なこと言ったのか?
やっぱ最後のいらんかったか!?
頭を抱えたい…………。
この現象はこの頃の男子の特性の一つである。やはり好きな子との会話には気を使ってしまうものだ…………。
まぁ単に俺が非リアでコミュ不足なのが原因なだけだろうけどな。
色々考えていると彼女が意を決したように追い打ちの言葉を続けてきた。
「あ…あの!今私、好きな人がいるんです!!それで………
彼女がまだ何か言おうとしていたのにもかかわらず、ここで俺の脳の容量は限界を超えた。
「ええっ!!???」
「え!?」
思わずかなり大きい声が出てしまった。
パラメーター吹っ切った俺は、一瞬自我を失った。
彼女も驚かせてしまったようだ。いかん。
仕事だ仕事。集中集中。
「ごめん、続けて。」
「あ……う、うん。それでね、好きな人がいるんだけど、もうすぐで高3になるじゃない?そうしたら、受験が始まるわけで…それで、私は人より少しだけ勉強ができるから親にこの近くで一番の大学に行くように言われてて塾に行かされそうなの…。でも私が好きな人の学力はそこそこだから…多分おんなじ大学に行けないし、たとえ今から付き合ったとしても、塾で忙しくなるから、時間が取れないと思うんだ…………。」
なるほど
要は進路と恋愛の駆け引きの相談か。
賢いが故の悩みだな。
しかしなぁ…………進路か……
「そっか……わかった。一回考えて見る。明日またこの時間で行けるか?」
「うん、大丈夫。よろしくお願いします。」
彼女は頭を下げて部屋から出ようとした。
その前にどうしても一つ聞いておきたかった。
「西条さん……西条さんはどれを優先したいの?」
周りの期待か、それとも恋か。難しい問いだと思う。
だから彼女の返答も予想どうりだった。
「……………ちょっと選ぶのは難しいかな…。わたしにはどれが正しいかなんてわからないよ。」
彼女はともすれば泣き出しそうな顔を見せ、そのままドアの向こうに出て行った。
「そうか……。」
やはりそうだろうな。
彼女は賢い。
俺が今考えたことぐらいすでに考えただろう。
その上で悩んでいるのだ。
改めて考えるとしよう。
彼女のために、俺に何ができるかを——
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