シロツメクサ戦争
黒山
EP.Ⅰ
『えー、本日も《コミテッドプラント》植物融解心病が大流行しています。繰り返します。本日も《コミテッドプラント》植物融解心病が大流行しています』
テレビの前の男は目に届いている長い髪をなびかせ、脚を組み替える。
「まーたこんなつまんないニュースやってんのか」
と、また一つ愚痴を言う。リモコンを右手で持ち上げ電源ボタンを押す。何も聞こえなくなったテレビからは静寂が漏れている。その途端、彼のスマートフォンの着信音がその【静寂】を破る。
「もしもしー」
「ああ、黒坂、今日からお前も国騎士の一人だな。通常時は普通に暮らしていいが、異常な時は真面目に働けよ」
「分かってる。大丈夫だよ」
「OKだな、じゃあな、はい、はーい」
向こう側の人間がプツリと電話を切ると、彼はテーブルにスマートフォンを置く。
現在、午後3時。あの病気が流行してから日は遅く昇り、早く沈む。もう辺りは夕方だ。
「なんか買いに行ってくるか。冷蔵庫に何もないしな」
黒いパーカーを着てアジトを出る。
「あっ、みんな。他に欲しいものはあるか?」
扉を開ける寸前、彼は問いた。
「お菓子」「食い物」「最新刊の漫画」
などと意見が飛び交う。欲しいもので人の個性が出ている。
笑顔で「あいよ」と言うと扉を再び開け、外へと脚を踏み入れた。
外では陽気な街並みの中、店が立っている。煉瓦造りの店に入ると、みんなの注文を一つずつ頼んだ。店番の店員が不愛想に商品を渡す。
あの病気が流行する前はこんなのではなかった。全ては、あの病気に犯されたのだ。
あの病気のせいで。
あの病気のせいで。
あの病気のせいで___。
一つ一つ重い足取りで帰りを急ぐ。
森の中に入り、やっとアジトが見えた。
扉を開けて中に入ると、「おかえり」と優しい表情で迎える。「ただいま」と彼が言うと、カゴを机に置く。
俺は黒坂ショウヤ。国から任命された、国騎士だ。
「おい、…ショウヤ?だっけ?」
隣の小柄な青年が彼に聞いた。
「一晩たったのにまだ名前覚えてないんですか?」
「ははっ、そうだなショウヤ。あ、年上だからって敬語使わなくていいぞ。タメでいいぞ。さん付けもしなくていいからな」
そう言うと目を細め、白い歯を見せる。
「わかりま…分かった、エイト」
数秒後、二人は声をあげて豪快に笑った。
昔はこんなことが毎日のようにあったのかもしれない。
あくまで、「昔」の話だけど。
「どうしたショウヤ。顔色が悪いぞ」
「ああ、いや、なんでもない」
「…そうか」
彼が再度口を開いた。
「そうだよな!お前が元気なくなっちゃ、お前らしくないもんな!」
彼が口角を上げ、微笑した。
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